転生令嬢の異世界ほっこり温泉物語
「そ、それならどこに行くつもりだい?」

「それは……まだ決めていないけど、ここ以外のどこかです」


失恋から立ち直るためには、相手から離れる事が一番だ。

側にいたらいつまでもたっても、怒りも悲しみも無くならない。

前世の記憶でその事を知っている私の行動は早かった。

渋るお父様を説得して、亡くなったお母様がお嫁入りの時に持参金代わりに実家から譲り受けた小さな領地に引っ越しをした。

レナードとエミリーとは会わずに、別れの挨拶すらしなかった。

ふたりからは何度も面会を申し込まれたけど、どうしてもその気になれなかったのだ。

この先一生無視するつもりはないけど、今は無理。

大失恋をした訳じゃないけど、傷付いている事に変わりはない。

その原因のふたりに気をつかえる程、私は出来た人間じゃない。

レナードとエミリーの不幸を望んでいる訳じゃないけど、私からの祝福を期待するのは止めて貰おう。

そんな風に慌ただしく、それでいてひっそりと私は生まれ育った家を出た。
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