君がいて、僕がいる。



私の必死な声に圭介は足を止めた。
……でも、私の方へ振り返ることはなかった。


「……なに?」

「意味、わかんない…
昨日までは全然そんなこと…」


昨日まではあんなに好きな気持ちを伝えてくれたのに

昨日まではあんなに私のそばにいてくれたのに

……どうして、なの…?その理由が知りたいよ……


「……私のこと、嫌いになった…?」

「そんなんじゃないよ」

「じゃあどうして…!」


そう聞けば、圭介はしばらく黙ったあと、私の方へと振り返った。
その顔はとても真剣で……でも、その目は決して私の方を向こうとはしない


「……真希のことは好きだよ」

「じゃあなんで…」

「真希のこと大事だから、俺じゃだめなの」

「意味、わかんな…」


もう、意味がわからない…
どうしてそんな急に、そんな決断をしたの…?


「……真希、ここに初めてきたとき、どうして生きるの嫌になってたの?」

「え…?」


どうして、って…


「居場所がなかったから、でしょ?」


私を見ないままの圭介。
ここから見る圭介は儚く笑って、そんな言葉を下に落とす。
今まで見たことないくらい苦しくて、その言葉を拾うのに私も必死だった。
圭介が今なにをいってるのか、なにを私に伝えているのか、意味がわからなくて…


「学校にも家にも居場所なんかなくて、って言ってたよね。
弟が荒れてて、って」

「……うん。」

「その弟、将希が荒れたのって、俺が原因なんだよね」


……ほら、また意味不明なことを言う。
それはきっと、この人が言葉を下に落とすから。

もう、拾うのも疲れてきたよ


「……俺、真希と知り合う前は本当に荒れてて。
ケンカして、カツアゲして、適当にそこらへんの親父ボコって財布奪って
そんなことばっかしてた」

「……嘘、でしょ?」


拾っても拾っても、その言葉の意味がわからない。
だって、圭介がそんな犯罪者に見えないんだもん。

絶対違う。
だってこの人はのほほーんとボーッとしてるだけ。
いつもさっぱりとして、なにも考えてなさそうな人。

……そんな人が、誰かを脅してお金を奪ったり、誰かに手をあげるなんて想像できないもん。


…たとえ荒れてたって、そういうことしてるようには見えないよ……



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