君がいて、僕がいる。
足早に向かう優斗くんの足が止まったのは、ひとつの廃れたビルの前だった。
「……ここ…?」
はぁはぁ、と息を切らしながら私は優斗くんに問う。
回りが廃れてるわけじゃない。普通に人通りもあるこんな場所で、こんなビルで、そんなことが起こっていたのだろうか…
「ここ。ここの地下の部屋。
……真希ちゃんは危ないから、近くで待ってなよ」
「やだ。私も行く。」
「女の真希がいても足手まといなだけだ。
そこらへんで待ってろよ!」
「は!?ここまで来て待ってられるわけないでしょ!
私も行く。……圭介は、私にとって大事な人なの。
楽しい夏休みを送れたのも、優斗くんと仲良くなれたのだって、
……こうしてさ、あんたと仲良く話せるようになったのだって、全部圭介のおかげなんだよ。
……いろんなこと、助けてもらったから…」
生きるのが疲れてた私だった。生きるのを諦めたかった私だった。
家族も壊滅的で、学校ではいじめられててさ
……でも、圭介と出会って笑うようになって
優斗くんとも出会って…学校でもさ、わざわざ私の誤解とか解いてくれてさ
家のことだって、将希とこんな話すようになったのは圭介がきっかけなんだよ。そんなの、あんただってわかってることでしょ…?
それまでは、必要最低限の会話だったり、とくに会話なくごはん食べたりさ…
この1ヶ月、楽しかったのは全部、圭介のおかげだったんだよ…
「……だから、今度は私が助ける番だよ」
もし、圭介がまだ苦しんでるなら
……私が、助けてあげたい。きっとなにか力になれることがあるはずだから…
「……そうだね。真希ちゃんも行くか」
「優斗くん…」
「今の神谷には、真希ちゃんが必要かもしれないね。
……佐脇を大事にしてた神谷だからこそ、同じくらい…いや、それ以上に大事かもしれない真希ちゃんじゃなきゃ、神谷に言葉は届かないかもね。
……でも、絶対俺から離れないでね?」
「うんっ…!」
優斗くんは私の手をがっつり掴んで、私もその手をがっつりと握る。
そして後ろには将希がきて、私たちは静かに階段を降りていった。
「…緊張する」
「それは俺も。……ドア、開けるよ?」
階段を降りた先にあったのはひとつのドア。
一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
本当にここにいるのかどうかなんてまだわからないけど…強く私の手を握る優斗くんの力強さが、圭介はここにいるんだって確信してる気がした。
「静かにね」
そういって、優斗くんは静かにドアを開けた。