君がいて、僕がいる。
「ゆずが言ってましたよ。
そいつに堕ちていく自分を、神谷さんに知られたくないってアユさんが言ってたって」
「……適当なこと、言ってんじゃねぇよ」
圭介の声が、怒りに満ちていた。
そんな声を向けられたことも今までなくて、正直びっくりしてしまったけど
「……私も聞いたよ」
ゆずちゃんから聞いた事実を、私も忘れたりしていないから…
「アユさんからの最後のメールも見せてもらった。
……圭介のことが好きなのに、その人のことを求めている自分もいるって…
自分からその人のところへ行ってたって書いてあったの、私見たよ」
「…嘘言ってんじゃねぇよ」
「嘘じゃないよ!」
「アユのことなにも知らねぇくせに口出ししてんじゃねぇよ!!」
私に向けられる、罵声。
「アユは、そんなことする女じゃねぇ…」
そして、アユさんに向けられる、愛情。
どれもこれもが、私の心をえぐる。
「……将希…?」
この痛みに耐えられなくて、私の目に泪が溜まる。
…その横を、将希が通りすぎていった。
そして、圭介のところまでたどり着くと
「__っ…!」
将希が、圭介を殴った。
「…ってぇな…なにすんだよ!」
「てめぇはどうなんだよ」
「は?」
「……神谷さんは、二人の女を同時にすきになったことはないんすか」
将希のその問いに、圭介の動きは止まった。
その将希の言葉に、私の目からは泪が溢れた。
「一人の女だけを大切にしたいのに、別の女も忘れられなくて大切にしたこと、ないんすか?
…あります、よね?
本当はそんなにアユさんのことが大切なのに、それを真希に知られたくなくて隠したこと、一度はあるんじゃないんすか?」
将希から出る言葉に、私の心はどんどん痛みつけられていく。
どれだけアユさんのことを想っていたのか、私には計り知れなかった。
「神谷さんも、アユさんを大切にしてるあまりに、苦しんだこと、ありますよね?
本当は真希だけを大切にしたいはずなのに、アユさんを忘れてはいけないって、どこかで制御していたんじゃないんですか?」
「……え?」
将希の言葉に、私の泪は一瞬にして止まった。
本当は私だけを大切にしたかったの…?
「神谷さん、元はと言えば熊谷が悪いです。
そいつがいなかったらアユさんが苦しむことも、死ぬこともなかったし
神谷さんが苦しむことがなかったのは事実です。
…でも、真希はずっと神谷さんのふらついた気持ちに、苦しんできた。
それなのに、自分はアユさんを許せないなんて、そんな自分勝手なことすんなら
…俺も、てめぇを許さねぇ」
私を守る、将希の言葉にまた私の目から泪がこぼれる。
こいつはいつからこんなに私を大切にしてくれてたんだろうって…
家族のことなんて、無関心そうな態度だったのに…