君のぬくもりを忘れたい
半径のセンチはそのままキープで、

2人歩いた。

シーーーーーーーーン…

(き、きまずい…)

最初に口を開いたのは、私だった。

「河野君…は今日〝いってきます〟って言ってきた?」

何を聞いているのだろう。
さっきから、私、変だ。

「え?」

でも、もう言ってしまったものはしかたがない。

–––––––––––もちろん、私は言ってきていないけど。
だって誰もいないから…

「言ってきたよ」

「そっか」

少しの間の沈黙。

「でも、俺はそういう〝いってきます〟とか〝ありがとう〟とかよりも〝気をつけて〟って言われることが多いかな。」

〝気をつけて〟––––––––––––––?

「どういうこと?」
不審に思ったので、聞いてみることにした。

「いや、うちのお母さん心配性でさぁ、
俺に何かあったら、俺に何かあったら、って〝気をつけて〟を連発して…」

「お母さん、河野君を大切にしてるんだね」

「あぁ。––––––––––––それもそれで、しんどいんだけどな」

「?挨拶できる人がいるって、すごく幸せな事でしょ?」

「ん。そうだな!」

こんなに長い会話をしたのは初めてかもしれない。

少し嬉しくなった。





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