君のぬくもりを忘れたい
「お父さん!お母さん!」

そういえば笑顔で振り返ってくれた。

「ずーっと一緒だよっ!!!」
そう言って両親に抱きつく。
そうすれば
「当たり前でしょ」
「そうだ、ずーっとな」
そう言って抱きしめてくれた。

あたたかかった。

欲しいものが手に入るとか
そんなことなんかいらなくて

このぬくもりを感じていられるだけで

幼い私には充分幸せだった。



–––––––––––あの日までは。


朝目が覚めると
いつもの聞こえてくる料理の音、
両親の話し声が聞こえなかった。

「ー?お父さん?お母さん?」

リビングは真っ暗で
怖くなってよんだ。

そう呼べば、笑顔で振り返ってくれたから。

でも振り返ったのは
怖い顔をしたお父さんだけだった。

「お父さん?お母さんは?」
見当たらないお母さんを探す。


思いもしなかったんだ


「なに言ってるんだ?お前にかあさんはいないだろ」


こんな言葉がでるなんて。

それを聞いた瞬間
頭部を殴られたような感覚に陥った。
これを人は〝ショック〟と呼ぶ。
そんな簡単な一言で表されるような感覚ではないのに。

その時

私の中の

幸せ が

愛情 が

信頼 が

ぬくもり が ––––––––––––––––––––

全て消えたのがわかった。

あたたかかった私の幼い体の中の何かが
完全に冷え切ってしまったんだ。


それからはずっと1人でいた。

家でも外でも。

そうして成長していくうちにわかったことがある。

1つは
お母さんは出て行ってしまったということ。

2つは
〝ずっと〟とか〝一生〟だとか
あるはずがないということ。



中学でも友達は作らなかった。

これが私ができる、最善の自分を守るためにできることだから。

「人」のぬくもりを感じてしまえば

あの日々の幸せを思い出してしまう。

そうしてまた幸福を求め
自分の欲に負けてまた––––––––––––


傷つくんだ。


(もう あんな思いは ー)



「そんなところで突っ立ってどないしたんや?」


遠くの方で関西弁が聞こえ、
私はハッとした。

「顔色悪いで、大丈夫?」

そこには、見慣れない顔の男子がいた。






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