君のぬくもりを忘れたい
ふぅ。

やっと落ち着いたな。

私は校庭のベンチに座る。

(さ、お弁当〜〜)

………………………ん、

お箸……………忘れた。

サイッアクだ。机の上に置いておいたのに。
私ってこんなにドジだったっけ…?

もう、戻るのもめんどくさいし、今日はご飯諦めるか。

ちなみに、お弁当は手作り。
しかも、今日は自信作なのに。

お弁当の中にある、卵焼きに目を落とす。

元はといえば、、、、、、

いや、あの人が人気なせいじゃない。
私がお箸を忘れていることにも気がつかず勝手にここに来ただけだ。

はぁ、とため息を落としたその時


「こんなとこにいた」
聞き覚えのある声が聞こえた。

声がした方を振り向くと、河野君が立っていた。

「–––––––––え?どうして」

「お箸、忘れてたから…」

河野君の手には、私のお箸箱。

少し息が切れていた。

驚きすぎて、河野君の顔を見つめてしまった。

すると、河野君が慌てたように口を開く。
「あ、おせっかいだった…?」


「「ち、ちがう!!!!!」」
大きい声が出てしまった。

「ぷっ」
河野君が笑う。

「そんなに大きい声出るんだ、壷林さん」
そう言いながら私にお箸箱を差し出した。


「…あ、りがとう」
あまりならない言葉に、照れ臭さを感じる。

「河野君、ご飯まだじゃないの…?ごめん、わざわざ」

「あ、いいよ。俺、みんなの前であんまりご飯食べないから」

–––––––––––––––––––––?

ひっかかった。けど、気にしないふりをした


お弁当に、もう一度目を落とす。

(あ…)

お箸箱からお箸を取り、お弁当を開け、
卵焼きをとる。

「お礼といっちゃなんだけど、食べる…?」

好き、、、っていってたよね!?

河野君は驚いた顔をしている。

–––それで思い出した。

いっぱいもらったからお腹いっぱいなんだっけ…⁉︎

やばい、どうしよう。気まずい…
無理させるわけにもいかないし。

しかも–––––––––––––
これ、〈あーん♡〉のシチュエーションになるし。

「あっ…と、私の手作りだし、美味しくないかもだし、お腹いっぱいなら無理して食べなくても–––––––」


ぱく。


「あ…」

河野君は私が端でとった卵焼きを口に入れた。

あ、あーん、し、ちゃった…

「うまっ!!!」

「ありがとう!特別うまかった!」

眩しすぎるぐらいのとびきりの笑顔を私に見せて、河野君は去っていった。



とく…


小さな心臓の音が聞こえた。

私の。





あーあ



このお箸、使えないじゃん




どうしてくれるのか。


あの人は








太陽みたいな、あったかい人。






(私とは真逆だな–––––––––)



心臓の音が落ち着いたら

教室に戻ろう。





お弁当とお箸を直した。



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