溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
自分でも不思議なの。気づいたらここに来ていた。……佐々木君に会いたかったから。

「……佐野?」

なにも言わない私を心配そうに見つめてくる佐々木君。

佐々木君はどんな想いで十年もの間、私のことを想ってくれていたんだろう。どうして私は、もっと早く自分の気持ちに気づかなかったんだろう。

考えれば考えるほど、熱い想いが込み上げ、それは涙に代わって溢れ出した。

「え、佐野?」

突然泣き出した私に、佐々木君は慌て出す。

「ごめっ……」

言葉は最後まで出なくて、途中で途切れてしまう。

すると佐々木君はそっと私の身体を抱き寄せた。一瞬にして包まれた彼のぬくもりに、さらに涙が溢れて止まらなくなる。

「なにがあったかわからないけど、辛いなら無理して我慢しなくていい。……ずっとこうしているから、泣きたいだけ泣けばいい」

佐々木君……。

さらにギュッと強い力で抱きしめられ、胸が苦しくなる。

そのまま私も彼の背中に腕を回し、私は佐々木君のぬくもりを感じながら、わけもわからずワンワン声を上げて泣いてしまった。
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