溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
「じゃあ帰ろうか、送るよ」

「――え」

顔を上げると、佐々木君は数歩先を進んでいた。

送っていくって……家にってことだよね?

すぐに彩音の顔が浮かび、すぐさま彼の腕を掴んでしまった。

「え、佐野どうしたの?」

「えっと……」

どうしよう、咄嗟に引き留めちゃったけれど、なんて言えばいい? 子供みたいに家に帰りたくないなんて言えないよ。

でも他に理由が浮かばなくて、口を閉じてしまう。

佐々木君はそんな私と向かい合うように立ち、私に言い聞かせるように言った。

「悪いけど、ここでバイバイできないよ? 心配だから家までちゃんと送らせて」

彼の優しさに唇をキュッと噛みしめた。

佐々木君はいつも優しい。……だからこそあれほど言えずにいたのに自然と口から出た。

「家に帰りたくないの」

「家に帰りたくないって……どうして?」

すかさず聞いてきた彼に、素直に答えた。

「佐々木君も今日、会ったでしょ? ……妹とちょっと色々あって」

言葉を濁すと彼は「そっか」と呟いた後、なにやら考え込んでいる。

「……佐々木君?」

どうしたんだろうと思い声を掛けると、彼はある提案をしてきた。「帰りたくないなら、俺の家に来ない?」って。
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