溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
だってあの佐々木君の家に行って、ご両親とも会って。……すごく楽しい時間だった。それに――。

思い出してしまうのは、彼の部屋での出来事。

今も佐々木君の手のぬくもりとか、至近距離で感じた吐息とか、全部鮮明に覚えている。

「私ってば単純すぎる」

少しだけ火照った頬を手で押さえた。

家を出た時は辛い気持ちでいっぱいだったのに。踵を返し自宅の前に立つ。

時刻は二十二時過ぎ。おばあちゃんはいつも眠っている時間。彩音はどうだろうか。

玄関は防犯の意味でいつも電気は点けっぱなしにしているから、起きているかわからない。

ドキドキしながら玄関のドアを静かに開けるものの、立て付けの悪い横開きのドアは、どんなに静かに開けてもガラガラと音がしてしまう。

肩をすくめながら靴を脱いだ時、奥からこちらに駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。

「お姉ちゃん!?」

「彩音……」

泣きそうな顔で玄関に来た彩音は、私の顔を見るなり抱き着いてきた。

「お姉ちゃん、ごめんなさい! 私、無神経な事ばかり言っちゃって……」

「ちょ、ちょっと彩音?」
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