溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
「環奈ちゃん、遠慮はいらないからね。どんどん食べて」

「はい、ありがとうございます」

上機嫌で焼いた肉を、どんどん環奈の皿に乗せていく父さんに溜息が漏れる。

「父さん、あまり環奈に無理強いするなよ。さっきから肉ばっかりあげすぎだから」

「いいじゃないか、あげたいんだよ」

俺と父さんのやり取りを、母さんと姉さんは笑いながら見ている。

待ちに待った環奈との旅行一週間前、父さんからとんでもないことを告げられた。『せっかくだから、家族みんなで旅行へ行こう』と。

どこで知ったのか、環奈へは連絡済みときたものだ。

環奈も気遣ってか、『ふたりではまたの機会に行こう』と言ってくれて、幸い一週間前ということもあって、キャンセル代はかからず済んだけれど……。

やって来たのは那須高原。父さんはコテージを借りていたようで、夜はみんなでバーベキューだと張り切り出した。

義兄さんは急だったため、出張が入っていて参加できず姿はない。

すっかりいつもの父さん主導の家族旅行と化している。

「本当に悪かったな、環奈」

ボソッと耳打ちすると、環奈は首を横に振った。

「ううん、楽しいよ。……それに真太郎のご家族とこうして旅行に来られて幸せ」

そんなことを言ってもらえたら、俺の方が幸せだ。

「ありがとう」

礼を言うだけで精いっぱいだった。
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