社内恋愛狂想曲
三島課長は後部座席の二人の様子を気にしながら、ゆっくりと車を発進させた。

葉月と伊藤くんは黙ったままにらみ合っている。

「佐野、木村の家知ってる?」

赤信号で止まったときに、三島課長はナビを操作しながら私に尋ねた。

「知ってますよ。えっと確かこの道を……」

「三島課長」

私が地図を見ながら葉月の家の場所を説明しようとすると、伊藤くんが突然声をあげた。

「木村は俺が連れて帰ります」

「連れて帰るって……だから木村の家の場所を……」

「それは必要ないです、俺の家に連れて帰るんで」

「ええっ?!」

私と三島課長は驚いて思わず大声をあげたけれど、2列目のシートに一人で座っている瀧内くんは、相変わらず興味なさそうに黙って前方の信号を見ている。

「私はアンタんちなんか行かへん!勝手なこと言わんといて!」

「勝手なのはどっちだよ!また逃げんのか?」

「逃げるって何よ!」

葉月と伊藤くんがまた喧嘩を始めてしまったけれど、車の中では動けないので間に入ることもできず、私と三島課長は後ろを振り返ってオロオロするばかりだ。

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