社内恋愛狂想曲
昼休みの残り時間を気にしながら化粧直しの続きをしていると、私の隣の席に奥田さんが座った。

この若い肌に化粧直しをする必要なんかあるのかしらと思ったけれど、むしろ若いからこそ、若さと皮脂が有り余って、化粧直しが必要なのか。

「佐野主任、男の人の心を鷲掴みにする方法ってなんだと思います?」

奥田さんは化粧ポーチから何かを取り出しながら、鏡の方を向いたまま私に尋ねた。

取り出したのは京都で有名なあのあぶらとり紙だ。

それも護からの京都土産なのだろう。

それにしても護は奥田さんにどれだけ京都土産を渡したんだろう?

私には取引先からもらった生八ツ橋だけだったくせに。

「さあ……何かしらね。彼と何かあったの?」

何も知らないふりなんて白々しいかなと思いながら、口紅をポーチから取り出す。

奥田さんは鏡を見ながらあぶらとり紙を肌に押し当てている。

「昨日の夜、彼が会いに来て、週末の約束をドタキャンしたお詫びにってたくさんお土産をくれて、いつもはけっこう激しめなのに、昨日はすっごい優しくしてくれたんです。でも終わったら、この後彼女と会うからって言って、いつもより早い時間に帰っちゃって」

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