社内恋愛狂想曲
イスから立ち上がって頭を下げると、下坂課長補佐は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

「そう?三島くんのことは待たなくていいの?」

「急用を思い出したから帰ったと伝えてください」

私はゴミ箱にカップを投げ捨てて、歯を食いしばり着信音を数えながら急いでエレベーターホールに向かった。

とにかく今は、三島課長の顔は見たくない。

それなのに、こんなときに限ってエレベーターはなかなか来ない。

少しでも気を抜くと目に溢れた涙がこぼれ落ちそうで、エレベーターを待たずに階段を駆け下りた。

しばらくして着信音が鳴りやむと、私はその場でうずくまる。

本物の婚約者が現れたのなら、偽物の婚約者なんてもう必要ない。

三島課長はそれを伝えるために、私に会いたかったのかも知れない。

そう思うとまた涙が溢れて、三島課長の思わせ振りな態度を恨んだ。

でも本当はわかっている。

この恋に望みなんて最初からなかった。

好きになってもどうしようもない人を勝手に好きになって、戦わずしてライバルに負けた。

それだけだ。

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