社内恋愛狂想曲
偽婚約解消
涙がおさまるのを待ってから家に帰り母に電話すると、用件はたいしたことではなかった。

それでも母のおかげであの状況から抜け出せたことには感謝している。

もしあのままあの場所にいたら、どうなっていたかわからない。

三島課長はずっと好きだった人ともう一度やり直すことを選んだのだから、私が気持ちを伝えたって迷惑なだけだろう。

三島課長の前で泣いたりわめいたりしたくないし、私の気持ちを三島課長と下坂課長補佐には知られたくない。

だから私は、三島課長を好きになる前と同じように笑って、偽婚約者の役を降りると言おうと思う。


翌日も仕事に追われて忙しく過ごした。

昼休みはコンビニで調達した昼食をオフィスで済ませ、定時までにさばけなかった仕事を残業して片付けて、三島課長と一度も顔を合わせることなく一日の仕事を終えた。

昨日「待ってて」と言われたのに待たずに勝手に帰ってしまったことを一言謝るべきかと思ったけれど、自分から連絡する勇気はなく、何も言えないまま一日が過ぎてしまった。

だけどいつも些細なことでも気にかけてくれる三島課長が何も言ってこないことを考えると、私が先に帰ったことなど、さほど気にしていないということだろうから、このままでいいのかも知れない。

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