社内恋愛狂想曲
そんなことを思いながらオフィスを出てエレベーターホールに向かうと、三島課長が壁に持たれて立っているのが見えた。

まさかこのタイミングで顔を合わせるとは思っていなかったから、焦ってしまい足が止まる。

三島課長は私の姿に気付くと、足早にこちらに近付いてくる。

「お疲れ」

「……お疲れ様です。昨日はすみませんでした。急用を思い出して……」

「うん……。本当は昨日話したいことがあったんだけど話せなかったから……今日こそは話そうと思って待ってた」

きっと下坂課長補佐と付き合うことになったから、もう私が婚約者のふりをする必要はなくなったという話だろう。

私の仕事が終わるのを待ってまで、一刻も早く私との偽婚約を解消したいんだなと思うと、悲しくて胸がズキズキと痛む。

だけど私は泣いて三島課長を困らせたりはしたくはないから、せめて一緒にいる間だけでも笑っていようと、胸の痛みを必死で押し殺した。

「私も……お話ししたいことがあります」

一緒にエレベーターに乗って会社を出た。

「とりあえず……どこかで食事でもしようか」

三島課長はそう言ったけれど、そんなに長く一緒にいたら、いつも通りに笑っていられる自信がない。

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