社内恋愛狂想曲
「今日は家で少しやることがあるので……」

早く話を済ませて帰りたいと、やんわり食事の誘いを断ると、三島課長は少し困った様子であごに手を当てて考えるそぶりを見せた。

「そうか……じゃあ家まで送るから、車の中で話そうか」

またこの間みたいに、下坂課長補佐を車に乗せた形跡を見つけてしまうのはいやなので、できればそれも避けたい。

「いえ、送ってもらうのは申し訳ないので……歩きながらでもいいですか?」

「できれば落ち着いて話したいんだけど……」

「駅前のコーヒーショップでコーヒーでも飲みながら話しましょうか」

「じゃあ……そうしようか」

私がことごとく三島課長からの提案を拒否したせいか、三島課長は少し不満そうだったけれど、とりあえず二人で駅に向かって歩きだした。

平日の夜だからか、繁華街を抜けると歩道沿いに軒を連ねる店もシャッターをおろし灯りの消えた店が増え、頼りない街灯だけが辺りを照らす。

それに比例して急に人影もまばらになる。

駅まではそう遠くないし、コーヒーを飲む間くらいはなんとかなるだろうと思ったけれど、駅に着くまでに私の方から話をすれば、三島課長の口から下坂課長補佐との話を聞かなくて済むかも知れない。

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