社内恋愛狂想曲
三島課長は私の手を引いて、駅に向かって歩きだした。

もうこんなことも最後だと思うとまた涙が溢れそうになったけど、泣かないように奥歯を食いしばってこらえた。

「あの……三島課長からのお話は……」

「うん……。俺はいつもタイミングが悪いんだ。志織に大事な話をしようとするといつも先回りされて、何も話せなくなる」

「いつも……?」

そんなこと、今までにもあっただろうか?

先回りされて話せなくなるということは、三島課長も同じことを言おうとしていたとか、質問の答えを私が先に話すということなのかも知れない。

駅に着くと、三島課長は少し名残惜しそうに私の手を離した。

「……あっという間だったな」

「そうですね」

「じゃあ……もう遅いから気を付けて帰れよ」

「はい。ありがとうございました」

私がお礼を言って軽く頭を下げると、三島課長は私の頭を優しく撫でた。

これからはきっと、三島課長はこの大きくてあたたかい手で、私ではなく下坂課長補佐の手を引いて、共に人生を歩むのだろう。

そう思うとまたズキズキと胸が痛む。

この胸の痛みが完全に消えるまでは、まだまだ時間がかかりそうだと思った。



< 521 / 1,001 >

この作品をシェア

pagetop