社内恋愛狂想曲
私が真剣に尋ねると、それが意外だったのか有田課長は一瞬ポカンとした顔をしてから、また笑いだした。

「おかしなこと言うなぁ。佐野主任、目は前向きについてるんだよ?後ろを向いても目は前を向いてるんだから、前向きなのは当たり前なんだよ。それでも目を横に動かせば視野が広がる」

「……なんですか、それ」

有田課長特有の持論に思わず笑いが込み上げた。

どこを向いても前なのなら、私は私の道を行くしかない。

「有田課長の持論を聞いたら少し気が楽になりました」

私が笑ってそう言うと、有田課長は私の頭をポンと叩いた。

「そう?なら良かった。最近の佐野主任は下ばっかり向いて、ちょっと元気なかったもんな。そうやって笑ってりゃそのうちいいことあるよ」

……この人、見てないようで見てるんだな。

会社では一応役職についているのだから、立場上、部下の前ではできるだけ顔を上げて仕事に徹していようと思っていたのに、上司の有田課長には落ち込んでいることを見抜かれていたらしい。

なるべくして人の上に立つ人になったのだろう。

「なかなか侮れませんね」

「ん?何が?」

「いえ、こちらの話です」

私も仕事だけでなく、何事においてもこれくらいの余裕が持てたらなと思った。


< 539 / 1,001 >

この作品をシェア

pagetop