社内恋愛狂想曲
長い信号待ちのあと、潤さんはゆっくりと車を発進させてから、前を向いたままでためらいがちに口を開いた。

「こんなこと聞くのもなんだけど……もう未練はないの?……橋口に」

「…………えっ?」

まさか潤さんの口からその名前が出てくるとは思わなかった私は、驚きすぎて返す言葉が出てこない。

「志織は隠したがってるみたいだったから言わなかったけど……俺は志織と橋口が付き合いだした頃から知ってた」

「……なんで?」

「俺が志織に告白しようって思ってたときに志織から“歳下の彼氏ができた”って報告されて、そのすぐあとに橋口から“志織はもう俺の彼女だから、あんまり気安く誘ったり触ったりしないでくださいね”って直接言われたから」

いろいろ面倒だから、付き合っていることは会社では秘密にしておこうと約束していたのに、護はその約束をすぐにやぶっていたらしい。

しかもよりによって、当時まだ入社2年目だった若造の護が、5年も先輩の潤さんに向かってそんな大口を叩くなんて!

「知らなかった……。会社では秘密にしておく約束だったのに、潤さんにまでそんな失礼なこと言ってたんですか……。私は葉月以外の会社の人には隠してたのに」

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