社内恋愛狂想曲
オフィスを出てエレベーターホールに向かう途中で後ろから肩を叩かれた。

振り返るとそこにいたのは営業部で事務をしている同期の木村 葉月(キムラ ハヅキ)。

入社してからの3年半は私も葉月と一緒に営業部で事務をしていた。

同期の中でも特に気が合う葉月とは、営業部にいた頃はもちろん、私が商品管理部に異動になった後も一番仲の良い同僚で、社内で唯一の気の置けない友人だ。

「志織、お疲れさん」

「お疲れ様。葉月も今帰り?」

「うん。今週は残業続きでしんどいわぁ。明日まで頑張ればやっと休みやなぁ」

大阪出身の葉月は地元を離れて随分経った今も、普段会話する時は関西弁で話す。

スラッと背が高くスタイルも抜群で顔立ちの整った美人なのに、口を開くと芸人顔負けのキレの良いしゃべりを炸裂させるので、そのギャップに誰もが驚く。

エレベーターに乗って扉が閉まると、葉月はニヤッと笑いながら右手でグラスを傾ける仕草をした。

葉月が「飲みに行こう」と誘うときにする、少しオジサンくさいいつもの仕草だ。

「なぁ志織、久しぶりに軽く一杯飲みに行かへん?」

「行く行く!ちょうど飲みたい気分だったの!」

今夜は部屋で一人寂しくやけ酒だと思っていたこのタイミングで、偶然葉月と会って一緒に飲みに行けるなんて本当にツイてる。

情報網の広い葉月のことだから、私が知らない営業部での護の話を聞き出せるかも知れない。

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