社内恋愛狂想曲
ぎこちなく繋いだ手の大きさとあたたかさにときめいたことは、今でも鮮明に覚えている。

あのとき瀧内くんが強引に押しきって始まった“偽婚約者作戦”がなかったら、私と潤さんは今もただの上司と部下だったかも知れない。

そう考えると、ゆうべ葉月が言ったように、人の縁というのは不思議なものだ。

私と潤さんは同僚としてずっと前からお互いを知っていたけれど、恋人として、そして婚約者として縁を結んでくれたのは瀧内くんだった。

瀧内くんだけでなく、伊藤くんや葉月の後押しがあって結ばれた潤さんとの縁、そして同僚から信頼できる友人となり、近い将来身内になる彼らとの縁を、これからの人生をかけて大切にしていきたいと私は思う。

「それじゃあ、そろそろ行こうか」

部屋の窓を閉め、スポーツバッグと冷蔵庫の中に残っていた食品をまとめた袋だけを持って、まだ煤と湿気の臭いのこもった部屋を出た。

「なんかあっけないね」

ドアの前で鍵を締めながら呟く。

「なんだって築き上げるのには時間がかかっても、捨てることなんて思いきってしまえば一瞬ですよ」

瀧内くんの言葉はやけに実感がこもっているように感じた。

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