社内恋愛狂想曲
「潤くんが志織を大切に想ってくれていることは、よくわかってるよ。あのとき潤くんは、お父さんの会社を継ぐ気はないと言っていたけど……私にはね、君が志織をなんとか繋ぎ止めるために、その場しのぎで先のことを曖昧に濁しているようにしか聞こえなかった。あれは本心ではなかったよね」

父に心の内を見透かされていたことに驚いたのか、潤さんは一瞬目を大きく開いて息を飲み、申し訳なさそうに頭を下げた。

「はい、おっしゃる通りです。申し訳ありませんでした」

「お父さんの会社を継ぐ決心はついたのかい?」

「今の会社で勤め続けた方が平穏な暮らしができると思っていたんですが……今は、父や祖父たちが曾祖父から受け継いで大切に築き上げてきた会社を守りたいと思っています」

父の目をまっすぐに見てそう言った潤さんの言葉には、迷いは感じられなかった。

それを聞いた潤さんのお父さんは、これまでなかなか首を縦に振らなかった息子の言葉に感激したのか、微かに目を潤ませている。

「そうなんだね。それで志織はどうなんだい?」

「私も潤さんと一緒に生きていきたい。何があっても私が潤さんを支える」

きっぱりと言い切ると、父は何度も小さくうなずいた。

その表情は嬉しそうでもあり、少し寂しそうにも見えた。

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