社内恋愛狂想曲
あんまり大きな声だったのでビックリして振り返ると、周りの人たちが私と伊藤くんを交互にチラ見した。

恥ずかしい……迂闊に振り返るんじゃなかった……。

「佐野!橋口と別れる決心がついたらいつでも俺んとこ来いよ」

伊藤くんは大声でそう言って、大きく手を振った。

「…………え?!」

大声で呼び止められるよりも恥ずかしいことを、最終電車を逃すまいと大勢の人が行き交う往来で言われたのに、伊藤くんのその一言で私の頭の中は真っ白になり、やがてたくさんの疑問符が飛び交った。

護と付き合っていることも、別れるかどうしようか迷っていることも、葉月と瀧内くん以外には話していないはずなのに、なぜ伊藤くんが知っているんだろう?

その理由を問い詰めるため伊藤くんのいる場所へ戻ろうとした。

しかし伊藤くんは何を勘違いしたのか、私に向かって笑って手を振る。

そしてその手でちょうど目の前を通り掛かったタクシーを止めた。

「タイミング悪っ……!」

私は伊藤くんを乗せて走り去るタクシーを見送り、ガックリと肩を落とした。

何がなんだかわけがわからないけれど、来週会社で伊藤くんをつかまえて問いただすしかなさそうだ。

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