クールな次期社長と愛されオフィス
いつもよりも早く秘書室に到着する。

それなのに、秘書室内には既に何人もの先輩秘書が出勤していて、妙に慌ただしくただならぬ空気を感じた。

急ぎ足で奧の廊下から出て来たマリカ先輩が私を見つけるなり慌てた様子で手招きした。

私がそばに寄ると、耳元で「緊急事態発生」と小声で言われる。

その先に続く言葉にドキドキしながら先輩の顔を食い入るように見つめた。

「アコの上司、海外新規事業開発部宇都宮部長辞任だって」

「え」

耳を疑うような言葉がマリカ先輩の口から発せられた。

体中の力が一気にしぼんでいく。

まさか、まさかだよね?

「今朝、急に決まったらしく私達も早朝に呼び出しがかかって出勤したのよ。ちょっとびっくりだよね。アコ、大丈夫?」

呆然と魂の抜け殻みたいになった私の肩を先輩は揺さぶった。

ハッと我に返る。

「そんな、私何も聞いてなくてごめんなさい」

「アコが謝る必要なんてないわ。なんでも急だったみたいよ。アコも直属上司辞任だからしばらくバタバタだと思うけどがんばって。また落ち着いたらゆっくり話そう」

マリカ先輩は私の肩をポンポンと軽く叩くと、また急いで人事部の方へ走って行った。

ふらふらする足下を引きずるように湊のいるであろう部長室に向かう。

間に合わなかった・・・・・・。

力なくノックし扉を開けると、湊はデスクに座ってどこかへ電話を入れていた。

恐らく急に辞任することで、顧客関係に連絡をしているのだろう。

電話を耳に当てながら、ふらふらと部屋に入ってきた私に目を向ける。

湊はしばらく話した後受話器を置き、私を見つめて深いため息をついた。

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