クールな次期社長と愛されオフィス
「必ずアコの元に戻ってくるからそれまで待っていてくれるか?」

私はしっかりと湊の目を見つめながら強く頷いた。

その後、湊は外回りの挨拶が落ち着いたら電話すると言い残して、部屋を出て行った。

がらんとした部屋には、まだかすかに湊の香りが残っている。

だけど、しばらくしたらその香りも・・・そう思った瞬間、今までの張り詰めた気持ちが切れ涙が頬をつたった。


その夜遅く、部長室で後片付けをしていたら湊から電話が入った。

「まだいたのか?」

「はい、あと少しで帰ります」

「後片付け全て任せてしまってすまない」

湊はこれからニューヨークに発つと言った。

新規事業のニューヨーク支店の後処理と担当者への引き継ぎをしてくるらしい。

そして、私はこのまま湊の家にいてくれていいと。

「少し時間はかかるかもしれないけど、俺は必ず帰ってくるから、それまで俺の家を守っていてくれ」

湊の家を出ないといけないと思っていた私は戸惑いながらも「はい」と答えた。

一呼吸置いて湊は続けて言った。

「あと、兄にアコのことや俺達の情報を漏らした奴がわかったよ」

「え?一体誰なんですか?」

思わずゴクリと喉が鳴るも、私には未だに心当たりがなかった。

「ほら、以前アコに無理矢理車の中でキスしようとした男だよ。難波医院の息子の難波亮」

「りょう?」

絶句した。もうあれ以来何も連絡はないし、もう完全に離れたと思っていた亮?

湊の話では、私に拒まれたことを許せなかった亮が私の身辺調査をし、私と宇都宮商事の社長の弟である湊と私が付き合ってることまで突き止め、私達が不利になる全ての情報を社長に売ったとのことだった。

「ひどい!」

思わず電話口で叫んでしまった。

どうりで詳しいことまで社長の耳に入っていたわけだ。ほくそ笑んでいる亮の顔を思い浮かべて怒りに震える。

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