クールな次期社長と愛されオフィス
「だけどもう全て片付いた。難波医院と宇都宮家は昔から関係があってね、そのことを引き合いに出して、亮って奴には金輪際アコに近づくなとしっかり釘を刺しておいた。今までその名前を出すことを拒んでいたけれど、その宇都宮家が今回は役に立ったよ」

湊は受話器の向こうで軽やかに笑った。

私も複雑な心境のまま頷くけれど、亮の一件も私が蒔いた種であることには違いない。

「何から何まで本当にごめんなさい」

胸に手を当てながら呟くように言った。

なんだろう、この胸の苦しさ。

自分のせいでこんなことになってしまったのに、全てを解決して、私を安心させて、そしてこの場を離れていく湊のことを思うと苦しくてどうかなりそうだった。

「俺は大丈夫だ。だから謝る必要なんかない。アコは悪くない」

まるで私の心を見透かしたように湊ははっきりと敢えて明るい声で言った。

「次会う時まで、アコは前を向いて自分の夢を追い続けていてほしい」

今、私にできることは、きっとそれしかないんだ。

それが湊にとっての望みなら、私はその思いをしっかりと抱いて歩いていかなくちゃ。

そして、必ずまた湊が戻って来ると信じて待っていよう。

湊の電話が切れた後も、しばらく受話器を耳につけたままその思いを噛みしめていた。

こうして、湊は会社から潔く去っていった。誰にも迷惑かけずに。









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