クールな次期社長と愛されオフィス
その車の扉がふいに開いたので、びっくりして思わずのけぞる。

「お疲れさま。毎晩こんなに遅いの?」

車から出て来たのは亮だった。

本当に待ってたんだ。

更にどっと疲れが押し寄せる。

駐車場まで見に来てしまった自分自身が不憫に思えた。

「本当に待ってるなんて思わなかったわ」

「俺が待つって言ったら絶対待つんだ」

「待たせてごめんなさい。まだ終電もあるし私、電車で帰るよ。ここから家までそんなに遠くないし」

「ここまで待ってて送らせないっていうのは逆に失礼だよ。近いなら尚更送るのも苦じゃない」

ここまで来たら観念するほかないんだろうか。

軽く首をすくめながら苦笑しながら言った。

「じゃ、申し訳ないけどお願いするわ」

亮の助手席に乗せられる。

このフェラーリという車も確かに高級車だけあって乗り心地がいいけれど、以前部長に乗せてもらった車の方が好きだと感じていた。

運転している相手が相手だからかもしれないけれど。

運転席で、亮は意気揚々と車自慢を始めた。

半分聞き流しながら適当に相づちを打つ。

「あ、そこ曲がって」

ぼんやりしていたら家のすぐ近所まで車は来ていた。

「そのポストの前でいいわ」

なんとなく自分の家を教えるのことに抵抗があって自分のマンションより一筋前の通りに面したポストを指刺した。

「え?ここでいいの?家の前まで送るよ」

亮が強引な感じで言う。

「うん、もうすぐそこだし、道が狭いからこんな高級車、壁に擦ったりしたら申し訳ないから」

適当に嘘をついてみた。

車に傷なんて、車好きの亮が最も懸念することだとわかっていたから。

「そう?」

不満そうな表情を浮かべながら車はポストの前で停車した。
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