クールな次期社長と愛されオフィス
「今日はありがとう」

そう言ってドアを開けようとした時だった。

亮が私に覆い被さるようにして抱きしめてきた。

な、何!!

半分パニックになりながら、その腕の中で亮の胸をドンドンと叩くもその力に圧倒されて身動きできない。

心臓が不安で破裂しそうなほどにバクバクしていた。

「俺、もうすぐ結婚するんだ」

「だから何?離して!」

亮の腕の中で必死にもがき暴れる。

「アコ、俺の愛人にならないか?」

「は?」

自分の耳を疑うような言葉が亮の口から発せられた。

愛人って、亮は正気で言ってるの?!

「アコの住む場所も身の回りのことも、何不自由させないと約束する。アコは自分の好きなように好きなことして生きればいいんだ。悪い話じゃないだろう?」

やっぱり亮の思考回路には到底着いて行けない。

これが生粋のお金持ちが考えることなんだろうか。

「俺はアコのことずっと好きだった。これからもずっと俺のそばにいて欲しいんだ」

「ふざけたこと言わないで!」

その時、亮の体が更に私の体をぐっと引き寄せ、亮の顔が近づいてくる。

「やめて!」

私はそう叫びながら、めいっぱい腕を自分と亮の間に入れ、その体から離れようとした。

その瞬間、背後からものすごい明るいライトが私達の車の中を照らし「ファンファン!」と耳をつんざくようなクラクション音が響いた。

亮が後ろを振り返ると、フェラーリにぴったりと寄せられた一台の車。

「まじか?」

亮は目を見開いてその車を凝視する。

「世界に数台しかないランボルギーニだ」

それがどんなけすごいものかはわからないけれど、高級車好きの亮が言うからには間違いないのだろう。

その車を確認した途端に亮の表情がひきつった。

「やばい奴が乗ってるのかもしれない」

そんなことをつぶやき車に見入っている亮の隙をねらって私は外に飛び出した。

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