クールな次期社長と愛されオフィス
「アコ!待てよ!せっかくいい話だってのにそんな拒否しやがって」

亮は、ドアの外に飛び出した私に向かって吐き捨てた。

「そんな話結構よ。私はそんなに困ってないし、こちらから願い下げだわ!」

私も負けずに言い返しながら、助手席のドアを勢いよく閉めた。

「覚えとけ!」

亮はそう言い放ち、もう一度確認するかのように後ろの車に目をやると、そのままその場から走り去った。

ふぅ。

大きく息を吐きながら、私は壁によろよろと倒れかかった。

それにしてもこのランボルギーニ?だったけ。

壁にもたれたまま、後ろに停まっているその高級車に顔を向ける。

どこのどなたか存じ上げないけれど一言お礼を言わなくちゃ。

その高級車のライトがパッと消え、中から人影が出て来た。

まさか、亮が言ってたみたいに、本当にやばい人だったらどうしよう?

この期に及んで胸がドキドキしてきた。

さっさとお礼を言って、私もその場から離れようとしたらその人影が私に言った。

「威勢のいいお嬢さん、こんな夜更けに何やってんだ」

その声は?

街灯の光がその人影を照らした。

「ぶ、部長?!」

背の高いスーツを着たその人は、宇都宮部長だった。

「え?どうして?随分前に帰られたんじゃ?」

そう返すと、部長は一瞬私から目を逸らし少しふてくされたような表情をする。

「いや、少し時間があったからドライブしていたらたまたまここに入り込んでしまった。前に邪魔な車があったからクラクションを鳴らしてやっただけだ」

たまたまここに入り込んだって?

以前送ってもらった時、通った道なのに。

ひょっとして?

まさかね。

敢えて目を合わさない部長に自分の胸が熱くなっていく。

すると、部長は優しい眼差しを私に向けた。

「大丈夫だったか?」

そして、私の頭をそっと撫でる。

その大きな手のひらが触れた途端、私の体中の血液が沸騰したかと思うくらいに熱くなった。

そんな気持ちを払拭しようと必死に口から言葉を吐き出す。

「あ、ありがとう、ございました」

そう言いながら頭を下げた。

「さっきの奴はお前の知り合いか?」

「え、ええ、昔の知り合いみたいな」

口をにごす。

部長にあいつを知り合いと思われるのも不愉快だったから。

「店にいるときから気に入らなかった」

部長はため息をつきながら小さく呟いた。

気に入らないって亮のこと?

どうして部長が気に入らないのか聞くに聞けない。

じっとそんな部長の顔を見上げていると部長が言った。

「今週の日曜の約束覚えとけよ。10時に迎えに行くから」

「はい」

そう答えるのがやっとで、体全体が脈を打っているようだった。

部長はそう言うと、車に乗り込み私側の窓を開けてやわらかく微笑み頷いた。

ドキドキしっぱなしの私を置いて、車は夜道を音もなく静かに走り去って行った。

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