クールな次期社長と愛されオフィス
戸惑っている私をちらっと横目で見た部長は、軽く口元をゆるめるとその手を私の髪に伸ばしてきた。

「え?」

気付いたら部長の手には髪を結んでいたリボン。

私の髪がふわっと肩に落ちた。

「そっちの方がいい」

部長は前を向いたまま微笑む。

そして、部長からリボンをそっと手渡された。

私、こういう時どう返せばいい?

胸の高鳴りにどう対処すればいいのか、もはや軌道修正は不可能な状態に陥っている。

肩に落ちた横の髪を耳にかけると、何も言えず助手席に座るしかなかった。

気の利いた会話なんてこんな状態じゃできるはずもなく、ここで何かを発したら墓穴を掘りそうで黙っていた。

「いつもの威勢はどうした?おとなしいな」

「だって、あの、そんな風にされたこと初めてだし」

「そんな風に?髪のリボンを勝手に取られたってことか」

「はい」

それしかないでしょう?

心の中で突っ込みながら、ちらっと部長の顔を見た。

部長は愉快そうな笑みをたたえてハンドルを握っている。

どうしたってこんなに余裕でいられるのかわからない。

「お前の髪を勝手に解いたことが気に障ったのなら謝るよ。ごめん」

「謝って頂きたいとかそういうのではなくて」

「じゃ、何?」

「急なことだったので驚いただけです」

「ふん」

部長は鼻で笑いながら、高速を降りた。

ここはどこだろう?

郊外なのは確かだ。緑が少し多い。

時代を感じさせる建物が点々と流れていく。



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