理系教授の秘密は甘々のはじまり
「俺の趣味は漫画やアニメ、ゲームだ。特に少女漫画が好きなんて笑えるだろ?」

真澄は自嘲して言った。

「そんなことありません」

「波実はあの時もそんなことを言ってくれた」

確かに彼氏にするなら同じ趣味の人がいいというようなことを言ったかもしれない。

真澄は眼鏡を外して髪を整えると

「俺はこのルックスでしかも理系の教授だろ?寄ってくる女にとってはオタクであっては都合が悪いんだ」

続けて悲しそうに言った。趣味について馬鹿にされたことがあったのだろうか?

「俺は、少女漫画みたいに純粋な恋に憧れてた。だけどどいつもこいつも打算ばかりで、ブランド品としての恋人役を俺に演じさせようとする。俺は女のアクセサリーじゃない」

真澄がふっと波実を見て微笑んだ。

「だけど、お前は違った。教授でイケメンの俺には全く興味を示さず、オタクの俺には優しい言葉を投げ掛けてくれた」

"教授でイケメン"ってどんだけ自己評価が高いんだ,,,。波実は少しだけ引いてしまう自分に気づいたが、黙って続きを聞いた。

「その上、教授の俺が漫画が好きだと言っても引かなかったよな?」

「それは意外でしたけど、私もこんな見かけでリケジョなのに漫画が好きなんて"意外"だとよく言われますから」

「俺にとっては救いの言葉だったんだよ」

真澄がそっと波実の肩を抱き寄せる。

「あの日から俺はお前に恋に落ちた。一緒にいればいるほど好きになる」

それからギュッと波実を抱き締めてきた。

「きょ、教授の秘密なんて私ばらしませんから」

「それとこれとは関係ない」

真澄は真剣な目をして波実を見つめた。

「ただ、お前が好きなんだ。誰にも渡したくない」


「キャー!素敵、ドラマの撮影かな?」

少し離れたところから、修学旅行生らしき女子高校生達の歓声が聞こえた。

思った以上に注目をあびていたらしい。照れる波実にもお構いなしに真澄は耳元で囁き続ける。

「好きなんだ,,,。」

「お兄さん達、お似合いでとても素敵なカップルですね。私は京都のタウン誌製作の者ですが、今、嵐山の特集を組んでまして。浴衣の素敵な二人の写真を載せたいのですが協力していただけませんか?」

ゆっくりと体を離した真澄と波実のところに、名刺とカメラを持った男女二人が"待ってました"とばかりに駆け寄ってきた。

一世一代の告白を邪魔されて、一瞬不機嫌になった真澄だったが、二人がお似合いと言われてまんざらでもないらしい。

「一枚だけなら」

そして、早く切り上げようと、勝手に撮影に同意してしまった。

「ありがとうございます」

嵐山と渡月橋をバックにカメラマンの男性は素敵な一枚を撮影して見せてくれた。どさくさに紛れて、女子高校生達も二人の写真を撮っていたが、真澄も波実も"すぐにスマホのごみ箱行きだろう"と敢えて何も言わなかった。

もう一人の取材班の女性は、二人が観光で来ていることを確認すると連絡先の大学をメモし、

「写真ができましたら雑誌と一緒にお送りしますね」

と言って次の撮影場所に移動していった。

「波実行こうか。返事は旅館で聞くよ」

そうして、二人は手を繋いで向こう岸まで橋を渡りきった。

観光スポットにもなっている周辺のショップを数件回ると、ゆっくりと来た道を戻って行った。


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