君を愛で満たしたい~御曹司のとろ甘な溺愛~
「旧姓のままで仕事してるんだな」


痛いところを突っ込まれ、コーヒー豆を用意していた手が止まってしまった。

すると目ざとくそれに気づいた彼が、「あっ、わけありか。ごめん」とすぐさま反応する。


「大丈夫です。でも出戻ったわけじゃないですから。嫁に行かなかっただけです」


もしかして離婚したと勘違いしているのではと思った私は、慌てて付け足す。

彼がインドに渡る前、私は幸せの絶頂にいた。
大学時代から付き合っていた彼と婚約をして、結婚目前だったのだ。


「嫁に行かなかった?」


一ノ瀬さんは眉根をひそめ、再びコーヒー豆に手を伸ばした私の腕を握る。

握られた場所がじんじんと熱を帯びてきて、なぜか泣きそうになる。
もう終わったことなのに。


「そうです。一ノ瀬さんが赴任されてすぐに、婚約破棄したんです」
「どうして?」
「それは……」


あの日から私の日常は変わってしまった。

彼は先ほど、二年前から変わっていないと褒めてくれたが、むしろ私は変わった。
仕事以外のすべての面で。
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