君を愛で満たしたい~御曹司のとろ甘な溺愛~
それは一ノ瀬さんが、こちらが動揺を見せては相手も揺らぐから冷静でいなければならないと、繰り返し教えてくれたからだ。

しかし、こんなときに役立つとは。


「一緒に来ていただけます?」


見て見ぬふりをすれば、このままうまくいったんだろうか。
いや、こんな気持ちのまま結婚なんてできない。

だって、二度目なんだもの。


一度目は大学を卒業してすぐ。
相手は同じ塾で講師をしていた同級生だった。

まさか、結婚の話を切り出してからもなお、こうして他の女性が出てくるなんて思ってもいなかった。


「いえっ、離してください」
「離せません」


私は彼女の手首をがっちりとつかみ、哲也の部屋へと向かう。
そして、チャイムを鳴らした。


「おぉ、急にどうした?」


とぼけた声を出す哲也は、私のうしろに立つ女性を見て、目を見開いている。


「連絡がつかなかったのはこういうこと?」
「な、なんの話だ」
「浮気の話」


はっきりと告げると、彼は大きく息を吸い込んでいる。
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