天才策士は一途な愛に跪く。
今日だって、女子社員のあのキラキラした羨望の眼差し。

中学時代を思い出す。

黄色い声に、憧れの眼差し。

先輩から、後輩の女子までも聖人を見に教室に来ていた。

「山科くんのほうが・・。私なんかよりも・・。」

「私なんかは禁止だよ?
無自覚だから余計心配してる。
いつでも、連絡してね。
すぐに迎えに行くから。」

「うん。なるべく早く帰るね。」

「なんか、嬉しいもんだね・・。一緒の家に帰るのって。」

聖人は優しく笑うと、頭上には影が出来ていた。

長い睫毛がゆっくりと閉じられて、そっと唇に温かいものがふれた。

外・・ここ、外だから!!!

パニックになる。

優しい口づけを受けた私は、真っ赤になって固まった。

長い口づけが終わると、聖人に向き直した私は真っ赤に頬を染めたまま気になっていたことを告げた。

「山科君、母から連絡があったの!!」

「留守電には、明日東京に来るって・・。
何だか、焦っている様子だったわ。」

不安気に見上げた晶を気遣うように、聖人は抱きしめた。

「おいで・・。大丈夫だよ。
きっと火事のことで連絡が言ったんじゃないかな・・。
母親が保証人になってただろ?」

「私、二条の会社を辞めたことも、まだ伝えられていなくて・・。」

母は、私が研究領域の会社に就職すると聞いた時に憤慨したように
怒鳴り散らした。

転職して山科で働いてることはまだ言っていない。

大学院に入ってから、年に数回しか連絡を取り合ってなかった。

「そうか・。慧にも連絡してみるよ。
もしかしたら、うちに来たことを知っている
のかもしれないね。
お母さんも心配しているだろうから、
明日僕も同席して話をさせてもらうよ。」

「うん・・。」

不穏な母の取り乱した声が蘇る。

とても良くない事が起こるような気がした。
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