時を繋ぐ真実の物語<「私の獣」番外編>
ミハエル老人の工房は、今日も独特な刺激臭に包まれていた。ガラスを煮詰めたときに漂うこの香りが、アメリはたまらなく好きだ。


「お久しぶりです」


「アメリじゃないか! 容態は、もういいのか?」


店の奥で模ったガラスに絵付けをしていたミハエル老人は、アメリの姿を見つけるなり目を見開き近寄って来た。


「ご心配をお掛けしました。おかげさまで、すっかり元気になりましたわ」


「おお、よく顔を見せてくれ……」


アメリの顔を間近で確認するなり、皺の寄った目もとを潤ませるミハエル老人の姿に、アメリの胸が熱くなる。


アメリが昏睡状態に陥っていた間、どれほど彼を不安にさせていたのかを思い知ったからだ。





「じいさん、ひさしぶり」


「おお、ブランにカールか。久しぶりだな。また手伝いに来てくれたのか?」


「違うよ、今日はアメリ様の護衛だ。もう年なんだから、あまり無茶するなよ」


ミハエル老人は、いつの間にやら二人の騎士ともすっかり打ち解けているようだった。


不思議そうなアメリの視線に気づいた様子のカールが、そっと微笑む。


「アメリ様が眠っている間、アメリ様の部屋を飾るガラス作りの手伝いをしに、国王陛下とともに幾度もこの工房に来たのです。俺らだけじゃありません。城の者も町の者も、皆必死にアメリ様の回復を願う国王陛下のお姿に心打たれ、率先して手伝いをしていましたよ」


「いつもガヤガヤしてて、けっこう面白かったよな」


その頃を懐かしむように笑うブラン。材料や機械のところ狭しと置かれたガラス工房を見渡したアメリは、必死に慣れないガラス作りに励むカイルと人々の姿を思い描いた。


そしてたまらなく、泣きたいほどに、また胸が熱くなったのだった。

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