[完] 空に希望を乗せて [長編]

夏季大会in団体戦

開会式。私たちは起立して前の方に出る。
「マナーチェックを行います。先生方は自分の学校の隣の学校のチェックをお願いします。」
爪、靴下、髪型、眉。4点チェック。流石に高校生にもなると引っかかる人はいなくなる。部活生は、の話だが。うちの高校は進学校だし結構偏差値も高いからほとんどが服装をしっかり整えている。ちゃんとした学校に入って良かったと思えるのはこんな時だ。

「開会式を開始します。気をつけ、礼。」
・・・。
「うわぁいよいよ今日やなー」
「ホント始まったことが未だに信じられんわ…」
ちょっと強ばった顔した先輩達が階段を上ってくる。
「コールします。女子団体戦、試合番号1番。弓場高校対南京高校の試合を、第1コートで行います。選手は審判用紙を取りに来てください。」
うわぁ、と弓場高校、南京高校の応援席がわく。
「よし、第1コート行くよー」
カナ先輩のよく通る声がみんなの耳へ入る。高校の団体戦は3ダブまであって、3単2複数と、5試合あるのだ。中学は3試合らしい。
「1から南京なんてツイてないねー」
「ほんとそれ。南京って強豪じゃん。」
「ねー」
「ジュニア出身も多いし。」
みんなの寂しそうな表情。勝って欲しい。
パーン、パーンと1本が始まる。
「第1ダブルスに夕花と奏出すかー。先生諦めてないよね?」
「あとから勝てるようにじゃない?ウォーミングアップだよ。ほら、先輩たちフットワークとかしてる。」
「ほんとだ。先生がいい先生で良かった。」
「ほんとそれ。」
微かに先輩たちの顔が曇る。
「すごい。相手のクリアよく飛んでる…。」
美結の呟き。
「あれ、1年生だよ。」
愛莉がさらっと言ってのける。
「はぁ?!」
あたしと美結の声が重なり、思ったより大声になる。ぱっと先輩たちがこっちを向く。
「あの、中村、小川ペア、愛莉中学の引退試合で当たったんだよね。ジュニアと元ジュニアペアで、結構ボロ負けした。」
遠くをみつつ視線そのままに語り出す。
「先輩たちに、勝ってほしい。」
愛莉…。愛莉の目には悔しさの念がこもっていた。

「ラブオールプレイ!」
「お願いします。」
ここら一帯に走る緊迫感。サーブ、スマッシュ、レシーブ、ヘアピン、ロビング、スマッシュ!決まった!
「先輩ナイスです!」
愛桜の声が体育会に反響する。そういえば男子は別会場なんだ。愛桜が恥ずかしそうにする。また決まった。弓場高校の生徒が湧く。この、 試合の高揚感には忘れられないものがあった。ファイトー!、頑張れー!頑張って下さーい!体育館に溢れて止まない声援。テンションが上がってきた。
「先輩ファイトです!」
思い切り声を出す。響く。心地いい。
試合は進み、なんと3セット目まで進んだ。
「せんぱーい!!!」
「頑張って下さーい!!」

ナインティーンオール。一気に緊張が走る。手汗がすごい。みてる私でもそうなんだから、奏先輩と夕花先輩のプレッシャーはすごいだろう。
サーブ、レシーブ、スマッシュ、レシーブ、クリア、ドロップ、ヘアピン、あ!危ない!奏先輩のロビング。ギリギリで入る。またドロップ。奏先輩のヘアピン。
「あ、奏回転かけた。」
相手の体勢がいっきに崩れる。
「奏…あいついつそんなん覚えたんだ?」
恵梨香先輩の呟き。
ぱちん、と2人の手の打つ音が響く。息が荒い。奥では希美先輩がシングルをしている。こちらは勝てているようだ。
トゥエンティマッチポイントナインティーン。
「先輩がんばれー!」
「奏、夕花ー!」
「頑張って下さーい」
「ファイトー!」
夕花先輩のサーブ。この2人の体力からしてデュースは厳しい。レシーブ、あ!アウト!でも気付かずとる奏先輩。上手なドロップ。相手の足が一歩及ばず…。勝利。はー、はー、という息遣いがこっちまで聞こえてきそうだ。
勝った…。すごい勝ったんだ!

結果は負け。三年の先輩たちが負けちゃって、残念ながら。その後もことごとく負け続け、団体戦は終わってしまった。
その試合を終えて、先輩たちが上がってくる。三年の先輩。みんな泣いていた。悔しい。あと一歩だったのに、と狂おしそうに泣いていた。こっちの胸もきゅっとなる。私たちもいずれ…そう思ったらちょっと怖くなった。
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