[完] 空に希望を乗せて [長編]

新人戦!

「只今より、平成28年、バドミントン新人大会の開会いたします。」
ついに始まった。茜先輩と瑠香先輩の哀愁漂う背中に切なくなる。でも、カナ先輩の気持ちも知ってるから、カナ先輩が頑張ってたことも知ってるから、努力が報われたんだな、って思いと、瑠香先輩、茜先輩の悔しさ、辛さも分かるから、心のなかで2つの気持ちが渦巻いてなんか苦しい。
「コールします。女子団体戦試合番号1番。弓場高校対水町高校の試合を、第1コートで行います。選手は審判用紙を取りに来てください。」
1本。パーン、パーンと新球らしい澄んだ音が響く。
「先輩!ファイトです!」
「頑張って下さい!」
「すず、奏!ファイト!勝てよ!」
いつも以上の真剣な表情。男子は別会場で応援できないけど、ちゃんと同級生の男子にはメッセージを送って置いた。春くん「おぉありがと!がんばる!」晃太朗くん「うん!そっちも応援がんば!笑」晴輝くん「おう!ありがと!なんか結木に応援されたら勝てる気してきた!結木も応援がんばれよ!」うぅ晴輝くん…。やっぱすきだ。結木じゃなくて茉夏って呼んでほしいよ。恋、しちゃったんだな…。きゅんとする。甘くて、でも切なさに苦くて、届かない思いはすっぱくて。でも、恋の味って、美味しい。ドロップを口の中でころころ転がすみたいに味わいたい。

「ねえ!茉夏!マッチポイントだよ!」
「ホントだ!先輩頑張って下さい!」
恋にうつつを抜かしてる場合ではない。
「勝てるよ!」
「先輩ー! 」
「すずー!奏ー!」
ぐっと拳を握る。お願い、勝って…!
「トゥエンティワンエイティーンゲームセット」
「わー!勝った!」
「先輩お疲れ様でーす」
先輩、なんとか勝った。すごい。
「あ!次カナ先輩でるじゃん!シングルスなんだー!」
茜先輩の表情が無だ。相当悔しんだろうな。その反面、瑠香先輩はなんとなくスッキリした表情を浮かべてる。どちらの気持ちが正解なのか、分からない。最近気付いたのだが、私はよく人間観察をしてる。美結の爪の形綺麗とか、愛桜の肌傷ひとつ無い、とか。普段あんまり目が行かないようなとこにも目がいくらしい。不思議だ。
この大会の結果は惜しくも5位で敗退。みんな悔しそうな表情を浮かべている。
「次の夏の大会頑張ろうよ!」
励ますようにカナ先輩が言う。
「・・・なに言ってんの?」
「え…?」
「あたしがでてたら勝てたかもしれないのに。」
「ねぇ待って、茜?どうしたの?」
「無理だから。叶恵になんて無理だから。」
「え?なに?どういう事?」
「なんで叶恵がでるの?あたしのが上手いのに。」
「え?なに?なんなの?」
「だから!なんで叶恵が選手なんだって話!あたしは中学からやってんだよ?なのになんで叶恵が出るわけ?」
目尻を下げて、辛そうな表情を浮かべてる。茜先輩の気持ち、分からなくはないけど…
「ねえ、待ってよ。それはおかしんじゃない?」
「美海?なんで?」
「みう、知ってるんだ。かなちゃん毎日1番にきて、ネット立ててるの。そのあと、みうと一緒に練習してるの。茜ちゃんが来る前に。あと茜ちゃんがネット立てるのめんどくさがって、クラスでベラベラ喋ってるのも。あとかなちゃん、放課後の部活のあとも練習してるんだよ。みうの家、かなちゃん家に近いから知ってるの。素振りとかしてる。みうもときどき一緒にやるんだ。」
「・・・。でも問題は実力じゃん!」
「ねぇ茜ちゃん、知らないの?かなちゃん、めきめき上手くなってきてるんだけど。」
「・・・は?」
「さっきの最初の試合見てた?かなちゃん、かなり強い相手に1セット取ったんだよ?」
「え?まさか中村さん…?」
「ねぇ茜ちゃん。試合は勝ち負けじゃないんだ。大切なのは試合の中身だよ。全力を出せたか、やりきれたか、課題をみつけられたか。」
「・・・。」
「茜、あたしもさ、十分茜が強いこと知ってる。でも、やっぱ試合には出たいから練習したの。あたしが強くなれたのも茜のおかげだから。たっくさんのライバルがいたから強くなれたのかも。あと茜の気持ち、すごい分かるよ。悔しいよね。スプリングカップ。見ててやっぱ辛かったし、今回のメンツ発表も怖かった。でもさ、こんな経験したから次はもっと頑張れるよ!」
「一緒にがんばろ?」
「・・・うん。ごめんね。ありがとう」
目が潤んでる。泣くまいと努力してるのかな。
負けちゃったし、いさかいもあったけど、ちょっといい思い出になった。
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