[完] 空に希望を乗せて [長編]

デビュー戦

たったったっと階段のステップを下りていく。その手は震え、力があんまり入らない。怖い。下に着いたらラケットケースから大事な相棒、紫とピンクのラケットを取り出す。そっと手垢で黒ずんでしまったグリップを握り、水色のガットを撫でる。
「今日もよろしくね!」
ラケットに話しかけるのが私のラケットに対する礼儀。ぺこっと礼をしてコートにはいる。ネット越しの挨拶。相手の中田さんの手をぎゅっと握り、お願いします。と挨拶する。さいしょはぐージャンケンぽん。あ、勝った。
「サーブで。」
審判をしてくれてる愛桜に告げる。中田さんが人差し指をぴんと立てる。1本をしようって話だ。パンとサーブを上げる。な、なにこれ天井見にくい!シャトル消えちゃうよ!私はなんとかタイミングを測ってうつ。ぱーんと飛んでく。よし。打てた。また返ってくる。ラケットを振る。打った感触がない。コツっとシャトルが頭に当たる。やばいやばい。焦燥感が胸にどっと押し寄せる。ふと隣に目がいく。晴輝くんが頑張ってる。私も、頑張らなきゃ!
「ラブオールプレイ。」
お願いします。スイッチを切り替える。サーブは出来るだけ速く正しく高く打つ。パーン。よし上がった!真ん中で構える。先輩たちや同級生の声援が聞こえる。いきなりスマッシュ!それをふわっと柔らかくネット際に返す。よし入った。こと、とシャトルが落ちた。よしやった!
「ワンラブ」
よし、点先取!バドミントンは流れが大事。なんどもカナ先輩の口から聞いた言葉。
「よし!結木、頑張れ!」
星野先生…。勝ちたい。いや勝つんだ!
それから、私と中田さんの試合は1点とっては1点取られ、という互角の戦いになっていた。コートチェンジ。
「結木、あんたなら絶対大丈夫だから。頑張っておいで!」
腰をぽんと叩かれる。
「ねぇ茉夏」
美結に声をかけられる。
「なぁに?」
「晴輝くん、勝ったよ。」
は、晴輝くん、勝ったんだ。すごい。あたしだって頑張んなきゃ!
あっちからのサーブ。位置を正確に捉えてドロップショット。カットに近いかもしれない。相手の体勢が崩れる。高く上がったシャトル。私は思い切り相手コートへそのシャトルを打ち込んだ。よし、エイトセブン。負けらんないよ!
そして結局、勝った。はっきり言って嬉しかった。お互い疲れて握手もちゃんと出来なかったけど、いい試合、が出来たと思った。
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