君のいた時を愛して~ I Love You ~
 夫婦茶碗も買い終わり、フォトフレームが部屋になじみ始めた頃、やっと二人の写真ができあがってきた。
 宅急便で受け取ったサチは、開けたいとはやる気持ちを必死に抑え、コータの帰りを待った。


 いつもより、少し遅い帰宅だったコータに、サチは写真を開けることよりも食事を先に済ませようと食事の準備をした。
 着かえを済ませたコータは、しっかりと梱包されている箱を見つけると、首をかしげながら手を伸ばした。
 身寄りがないに等しいコータとサチのところに届くものといえば、請求書か大抵は宛先人無作為のダイレクトメール位だった。
 頑丈な箱に貼られた宛先を確認するまで、隣の部屋の預かりものなのかと思っていたコータは、差出人の名前に目を見開くとハリバリと音をたてて箱を開け始めた。
 水を使っていたサチは、背中から聞こえる音がまさか箱を開けているとも知らず、両手におかずの入った鍋とおたまをもって振り向いた。その瞬間、二人の結婚写真をじっと見つめるコータの姿に声を上げた。
「ひどいコータ! 二人でゆっくり見ようと思って我慢してたのに!」
 手に持っている鍋を投げ捨てそうな勢いで起こり始めたサチに、コータは慌てて写真を箱に戻した。
「ごめん、サチ。ごめん。俺が悪かったよ。ちゃんとサチに声をかけてから開けるべきだったよ」
 コータは言うと、両目から涙をあふれさせてなくサチのもとに歩み寄った。
「サチ、本当にごめん。頼むから、そんなに怒らないでくれよ」
 コータは言いながらサチの握っている鍋とおたまを受け取った。
「初めてだから、ちゃんと写真見るの・・・・・・。だから、だから・・・・・」
「ごめん。俺、そういう気配りできなくて・・・・・・」
 コータは鍋を置くとサチを抱きしめた。
「すごく楽しみにしてたんだよ。それなのに、コータったら、何にも言わないで・・・・・・」
 泣きじゃくるサチを抱きしめ、コータはゆっくりとサチを座らせた。
 しばらく泣き続けたサチは、突然、スイッチか切れたように泣き止んだ。
「ごめんなさい。あたし、変だよね。コータが写真見たくらいでこんなに泣くなんて」
 恥ずかしそうに言うサチに、コータは笑って見せた。
「泣いてるサチもかわいいけど、やっぱり、俺は笑ってるサチが一番好きだ」
「こ、コータ?」
 顔を赤くするサチをしっかりと抱きしめると、コータはサチに口づけた。
 二人の愛を確かめ合うような深く甘いキスの後、コータは優しい瞳でサチを見つめた。
「コータったら、もう・・・・・・。おかず、あっためるね」
 サチは恥ずかしそうに言うと、再び鍋を持とうとしたが、コータが素早く鍋を取り上げた。
「座っていていいよ、サチ。俺の可愛い奥さん」
 少女漫画だったら、バラの花弁とピンクのハートが舞い飛びそうなコータの言葉と様子に、サチは顔を真っ赤にして俯いた。
 サチの作った夕飯を温めなおし、二人は夕食を済ませてから改めて箱から写真のアルバムを取り出した。
 並んで座り、アルバムを広げると、眩いばかりに輝く純白のドレスに身を包んだサチと着なれないフロックコートを着た、コータの写真がまるでアイドルの写真集のように美しく並んでいいた。
 二人は一枚だけの写真を頼んだつもりだったので、最初のページにコラージュのように散りばめられている写真を撮る前に立ち位置を調整している時に撮影されたと思われる恥じらう二人の姿が、まるで本当に式を挙げる前の辛労新婦の姿のように見えて、二人は心の中で互いに式をイメージしてしみるのだった。
「すごいね、プロって・・・・・・」
 大判の写真がフレームに入って届くだけだと思っていた二人は、厚くはないアルバムを前にそれぞれの想いを胸に思い描いていたが、コータよりも先に、サチが口を開いた。
「こんな風に、なんかアイドルの写真集みたいに出来上がってくるなんて、思ってもいなかったよ」
 コータも感想を口にすると、サチが無言で頷いた。
「つぎのページに行く?」
 サチの言葉に、コータがページをめくると次のページはドレスとフロックコートがトルソーに着せられた写真、続きのページには髪の毛を結い上げているサチの姿と、トルソーに着せられたフロックコートを見つめて苦笑いをしているコータの姿があった。
「なんか、コータ着たくなさそうな顔してる」
 サチに突っ込まれ、コータは頭を掻いた。
「違うよ、スーツだって着なれてないのに、こんなにすごいもの着たら借り着なのがバレバレになって、サチと釣り合わないんじゃないかって心配になっただけだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。でも、これを着ないと、ドレス姿のサチに会わせないって脅されたから、勇気を振り絞って着たんだよ」
「で、着てみた甲斐あった?」
「あたり前だろ。あんなに綺麗なサチの姿、見逃してたら後悔どころじゃ済まないよ」
 コータは言うと、サチの肩を抱き寄せた。
「コータ、あたしこんなに幸せでいいのかな?」
「あたり前だろ。サチが幸せじゃなかったら、俺も幸せでいられない」
「コータ・・・・・・」
 サチはコータに寄り添った。
「サチ、最近、体の調子が悪いみたいだから、ちゃんと病院に行った方が良い」
 コータの言葉に、サチは愕いて顔を上げた。
「すごく疲れた顔してるし、よく鼻血がでてるだろ」
「えっ?」
 驚くサチに、コータは優しく微笑み返した。
「大将も心配してるって電話をくれたんだ。俺も気になってたから、やっぱりそうだったんたって確信したんだ」
 コータの言葉に、サチはコクリと頷いた。
 コータだけでなく、大将までが自分のことを心配して、わざわざコータにまで連絡してくれたことに、サチは胸の中が温かくなるような感じがした。
「一緒に病院ついていこうか?」
 コータの言葉に、サチは頭を横に振った。
「大丈夫だよ、コータ。病院くらい一人で行かれるから」
 サチは言うと、笑って見せた。
 コータは愛おしそうにサチの頭を撫でた。


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