君のいた時を愛して~ I Love You ~
 仕事から帰ってきたコータは、ご機嫌のいいサチの様子に『特売でもあったのかな』などと考えながら、手早く着替えを済ませた。
 予定では、今日は夕食後に銭湯に行く日だ。
 食事はごま油で炒めたもやしと、人参とジャガイモを豚肉で包み、醤油と砂糖で甘からく味をつけたものと、リピート回数ダントツ一位の冷奴だった。
 ごま油で炒め、さっと塩味を付けてゴマを振りかけてある炒め物は、コータの鉱物の一つだ。それに、豚肉で包んだ人参とジャガイモは、一口で肉じゃがを食べている気になれるお得なおかずでもある。
「今日もごちそうだな」
 コータが一声かけて席に着くと、サチが嬉しそうにご飯を茶碗によそった。台所の狭さから、二品もおかずを作れば、味噌汁はインスタントになる。

 ささやかな夕飯の間、サチはずっと電子写真立ての事を口にしてしまいそうで、コータの話に相槌を打つだけでなんとか乗り切った。そして、コータが皿を洗ってくれる間に、サチは隠しておいたデジタルフォトフレームをちゃぶ台の真ん中に設置して電源を入れた。
「コータ、こっち向いて!」
 サチの言葉に振り向いたコータは、鮮明に映し出される二人の写真に思わず手を止めた。
 いつも可愛いと思っているが、こうしてみるとサチの可愛さは、想像以上だった。
 洗いかけの茶碗が手を滑り、鈍く光るステンレスの流しに落ちてガチャンと割れる音がした。
 慌ててみると、それはサチの茶碗だった。
 まだ、この部屋に居候をしていたころ、自分の茶碗は自分で用意してくれというコータの言葉に従い、どこからか買ってきたものだった。
「ごめん、サチ。写真に見とれて、茶碗が・・・・・・」
「コータ怪我はない?」
 自分の茶碗よりも、コータの事を心配してくれるサチがコータは愛しかった。
「こんど、夫婦茶碗のセットを買いに行こう」
 今まで、お揃いでもなく、ただある物を使っていた二人だったが、コータはもっと夫婦らしい事を沢山サチとしたいと思うようになっていた。
「うん!」
 幸の嬉しそうな笑顔に微笑み返し、コータは片付けを続けた。

☆☆☆

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