君のいた時を愛して~ I Love You ~
 一週間後、外来の予約時間に俺とサチは病院へと向かった。
 予約の時間をかなり過ぎてから、サチの順番がやってきた。名前を呼ばれ、診察室に入ると、中嶋先生は笑顔ではなく、真面目な顔で俺たちを迎えた。
「おかけになってください」
 先生に言われるまま、サチは先生の正面、というか、隣の椅子に腰を下ろし、俺は付添用に用意された扉脇の折り畳み椅子に腰を下ろした。
「検査の結果が出ました」
 中嶋先生はサチに具合も尋ねず直球で言った。
「やはり検査の結果、急性白血病であることが判明しました。ですので、今日は、治療の方針を決めていきたいと思います」
 中嶋先生の言葉に、サチは言葉を飲んで俺のほうを振り向いた。
「先生、治るんですよね?」
 サチの代わりに俺が問いかけた。
「今は、いろいろと治療法があります。とりあえず、化学療法を開始しましょう」
 化学療法という言葉に、俺は恐怖に震えているサチに手を伸ばした。
「とにかく、何でもいいです。サチを治してください」
 俺は深々と頭を下げた。

 中嶋先生は、サチの検査結果から、既に治療の方針をまとめ上げてくれたので、俺とサチは先生の話を聞き、早速、投薬と化学療法を始めることにした。
 サチの入院恐怖症をよく理解している先生は、サチには必要な時以外はすべて通院で治療を続けることにした。
 化学療法は体力勝負になるので、先生からはサチが大将の店で働くことは難しいだろうと言われた。


 病院を出ると、サチは思いつめたような瞳で俺のことを見つめた。
「サチ、どうしたんだ?」
 俺が問うと、サチは俺の腕をぎゅっと握った。
「大将の店で働けないと、あたし、あたし・・・・・・」
 サチのことを抱き寄せると、俺は耳元で言った。
「サチ、俺とサチは結婚したんだぞ。サチは何も心配しなくていい。元気になることだけを考えていればいい」
 俺の言葉に、サチはコクリと頷いた。
 それから、俺はサチを部屋に送り届けてから、食材の買い出しに出かけた。特に食事制限はなかったけれど、治療が体力勝負と聞くと、今までのような倹約前提の食卓ではサチの健康のためにならない。それを思うと、俺は献立に頭を悩ませた。それでも、急に豪華にするとサチが気にするなと思い、薄切りのロースの豚肉と野菜を買い、瓶入りのオイスターソースをカゴに入れた。
 とりあえず、今晩は肉と野菜のオイスターソースにした。

☆☆☆

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