君のいた時を愛して~ I Love You ~
 翌日から、コータはいつものように仕事に戻り、サチは結果を富・山コンビのおばさんたちに話して聞かせた。
「なんてこった。このボロアパートに住んでるのはポンコツの年寄ばっかりだからね。若いもんがいたら、首に縄をつけてでも引っ張って行って検査を受けさせるんだけどね」
 富田のおばさんの物騒な言葉に、サチは苦笑した。
「皆さんには十分助けていただいてますから」
「こんな汚いボロアパートにいて大丈夫なのかい? きれいなマンションに引っ越すとか、もっと清潔な病院にはいるとかしなくていいのかい? だって、さっちゃんの病気は抵抗力がなくなる病気なんだろう?」
 山根のおばさんの問いに、サチは頭を横に振った。
「先生には入院しろって言われたんですけど、あたしは最期までコータのそばに居たいんです」
 サチの言葉に、山根のおばさんは目頭を押さえた。
「何言ってんだい、さっちゃん。男やもめに蛆(うじ)がわくって言うんだよ。可哀想じゃないか、置いて行ったりしたら」
 富田のおばさんの言葉に、山根のおばさんが噛みついた。
「なに縁起でもない事を言ってるのさ」
「仕方ないじゃないか、さっちゃんが縁起でもないこと言うんだから」
「大丈夫ですよ。コータは一人で何でもできるから」
 サチが言うと、二人が頭を横に振った。
「独身の頃何でもできたからって、やもめになって何でもできるとは限らないんだよ」
「そうそう。独り身に戻るってのは、そんなたやすいことじゃないんだから」
 二人の言葉にサチは少しだけコータのことが心配になったが、コータの強い生き方を知っているサチは、すぐにその不安を打ち消した。
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