君のいた時を愛して~ I Love You ~
十一
 スーパーのバイトを終え、俺が帰宅するとサチが珍しく雑誌を読んでいた。
「ただいま」
 俺が言うと、サチがすぐに『おかえり』と答えたが、いつもと違ってよほど真剣に雑誌を読んでいるのか、顔を上げる様子もなかった。
 俺は『着替えるよ』とサチに一声かけ、部屋着に着替えた。
 部屋着と言うと聞こえはいいが、単に外に着て行くのはちょっと厳しいかなという、傷んだ服を重ね着するだけの事だったが、外出着を長持ちさせるためには、絶対に必要な事でもある。
「なに読んでるの?」
 俺が問いかけると、サチが頁をドーンと見開いて俺に見せてくれた。
 そこには、洒落たクリスマスの装飾とワインレッドのテーブルクロスをかけられた丸テーブルに豪華なメニューと可愛いデコレーションケーキが載せられたレストランの写真が載せられていた。
「ここにしよう」
 何を言われているのか分からず、俺は首を傾げてサチを見つめた。
「もう、コータったら、この間クリスマス・ディナーしようって話したじゃない!」
 サチは口をとがらせて俺を糾弾した。
「あ、いや、でも、あれ行くって決まったんだっけ?」
 俺は言いながら、懐具合を心配する。
 正直、俺は外食でお金を沢山使うくらいなら、サチに可愛い洋服の一枚も買ってやりたいと思っているが、サチはやはり女の子で、そういう豪華なデートに魅力を感じるようだ。
「ここね、すっごく高そうに見えるのに、手ごろな値段なの」
 それは確かに魅力的だが、普通そういう場所はとっくに予約でいっぱいだろう。
「あ、もちろん、クリスマス・イブとクリスマスの日は予約でいっぱいだし、すごく高いメニューしかないけど、その前か後なら、お手軽なコースがあるの」
 確かに、どちらの日も満席なのは予想できるし、第一俺は毎年恒例のくじ引きに負け、その両日ともスーパーでサンタクロース姿でケーキを売ることになっている。もし、隣にサンタガール姿のサチがいたら楽しいだろうなと思いながら、俺は自分の考えを心の中にしまっておくことにした。
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