君のいた時を愛して~ I Love You ~
サチ御用達のリサイクルショップは、いわゆるありがちなリサイクルショップで、店の前の気持ちばかりのエリアから歩道の一部を占拠して、ありとあらゆる家具から調度品、洗濯機などの白物家電をこれ見よがしに並べていた。
 店の前を見た俺は、店内にも所狭しとタンスや棚、引き出し類が並べられているものと思い、遭難せずにサチと帰れるように祈りたい気分になった。
「こっちだよ」
 サチに導かれ、自動ドアーに見えながら『手動』という紙が貼られたドアーを開けて店内に入ると、中は洋服やバッグ、中には俺も知っているブランドのロゴのついた商品までが綺麗に並べられていた。
 壁際の一角に『委託品』と書かれたコーナーがあり、その一角だけ、値札のゼロの数が違うのは、店が仕入れた商品ではなく、依頼者から手数料を貰う代わりに店に並べている委託品だというのがすぐに分かるゼロの数だった。
 他の商品とは違い、委託品のコーナーに並んでいるのは、有名ブランドのロゴもまぶしい、新品のようにすら見える商品ばかりだったが、他の商品はと言えば、本当に売り物なのかと疑問に思うくらい使い込まれたバッグなども並んでいるが、ゼロの数は段違いに少なくなる。
 興味深げに周りを見回してしまう俺とは違い、サチは勝手知ったると言った様子でずんずんと店の奥へと進んでいった。
「サチ、お店の人いないのに、良いのか?」
 俺が声をかけても、サチは『こっち、こっち』と言いながらどんどん奥へと進んでいった。
 女性ものの服やバッグ、靴と言った品々の一角に、一応男性用のネクタイや細々としたものが陳列されていたが、ブランド物の品がタダ同然に売られているのは、これもややこしい男女関係の解消の結果なのかもしれないと思いながら、俺はサチに続いて店の奥へと進んでいった。
「こんにちは!」
 サチが良く通る大きな声で言うと、『おや、さっちゃんだね』という女性の声が聞こえ、人のよさそうな女性がひょいと顔を出した。
「こんにちは、おばさん」
「そちらが、噂の白馬の王子さまだね」
 『白馬の王子』という言葉に、俺は一瞬何を言われたのか分からず、答えに窮する。
「もう、おばさん、ガールズトークの内容は、話しちゃダメだってば!」
 茶化すようにサチがフォローを入れ、俺はとりあえず、挨拶をした。
「で、例のベッドを見に来たんだろう?」
「さすが、おばさん」
「誰にだってわかるよ、大きく『さっちゃん用とりおき』って書いてあるんだからね。それに、あんな大きなもの、置くところに困るから、はやくさっちゃんが引き取ってくれると嬉しいねぇ」
 最後の方は、サチに言っているというよりも、俺に言っているように聞こえた。
「じゃあ、見に行ってきます」
 サチは言うと、俺の手を引いて、更に奥へと進んだ。
 店の奥には、昔は駐車場に使われていたと思える大きな倉庫になっていて、そこには所狭しと家具が並べられていた。サチは迷わず、目的のベッドに向かうと、ドラムロールとジジャーンという効果音が聞こえてきそうなそぶりで俺にベッドを見せた。
 ベッドはサチが説明した通り、とてもきれいで新しく、言われなければ中古だと気付かないくらいの代物だった。
「ちょっと重いんだけど、上に開くんだよ」
 サチは言いながら、ベッドの上の部分を持ち上げて、収納力をアピールした。
 しかも、ベッドの中には、既に掛布団の真新しいセットが納められていた。
 明らかに、サチの作戦勝ちだなと俺は思いながら、サチに笑って見せた。
「気に入ってるんだろ?」
「うん、すごく」
「じゃあ、あのオンボロに場所をあけさせるよ」
 俺が言うと、サチは嬉しそうに俺に飛びついてきた。
「コータ、ありがとう」
「でも、これ運び込めるか?」
「手伝ってくれるから大丈夫だよ」
 なにからなにまで調べ尽くしてあるサチに、俺はそれ以上言う言葉はなかった。
「じゃあ、今晩、お金用意するから、明日でも買いに来て、配送とかはサチに任せるから」
「わかった。任せておいて!」
「じゃあ、俺は仕事に行くから」
「わかった。こっちの方が早いよ」
 サチは言うと、倉庫の脇のドアーを開けて俺を外に出してくれた。
「壁沿いに回ると、すぐに道路に出るから」
「わかった」
「行ってらっしゃい」
 俺はサチに見送られ、一路スーパーを目指した。

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