君のいた時を愛して~ I Love You ~
クリスマスケーキ以来、俺の悪運は思いっきり猛威を振るっていて、通常、寒風吹きすさぶ中でケーキを販売したスタッフは、年末の飾り売りも同じく寒風の吹きすさぶ中という事で、自動的に免除されるのだが、今年最後のハズレくじを引いたバイトの学生がインフルエンザで出勤停止になると、なぜか代役は俺という事になり、ドキドキハラハラのディナーの余韻を楽しむ暇もなく、翌日から俺は外で正月飾りを売らされている。

「あ、お疲れ様です」
 従業員出入り口ですれ違った社員さんに挨拶をすると、俺はそのまま更衣室のロッカーに私物を入れて制服に着替えた。
 タイムカードを押して売り場に出ると、いつもと同じなのに、どこか忙しなさを感じさせる買い物客がひしめいている中をまっすぐに外の特設コーナーへと向かう。
「お疲れ様です」
 一声かけると、寒さに手をかじかませて声が枯れそうなくらい頑張ってお客の気を惹こうと頑張っていたパートの女性が待ってましたとばかりに微笑んだ。
「中で温まってきてください」
 俺は並んでいる飾りの数を数える前に声をかけると、売り上げ票に記載されている数と、在庫の数を確認する。
「じゃあ、ちょっと温まってくるわ」
 パートの女性は言うと、建物の中に姿を消した。
 俺が働き始めたころは、他に飾りを扱う店も少なく、正月飾りは飛ぶように売れたが、並びに大型チェーンのドラッグストアができ、そこでも飾りを扱うようになってからは、正直、寒いだけで売れない、年内最後の究極のハズレ特設売り場と呼ばれるようになったとはいえ、それでも一時間に一、ニ個は売れる。クリスマスケーキだって、最近ではあちこちで売っているし、コンビニの予約や特典、ネットの有名店のお取り寄せにおされて、売れるというほどには売れない。
「年賀状いかがですか~!」
 隣の特設売り場では、郵便局からの出張スタッフが必死に年賀状の販売をしている。
 工場で働いていた頃は、先輩に教えられ、会社の上司に毎年欠かさず年賀状を書いたけれど、その先輩も雇止めの後、音信不通になってしまっている。
 この年の瀬になってから年賀状を駆け込みで買う人がいるのかと不思議に思いながら見ていると、それでも正月飾りよりは売れていた。
 まあ、正月飾りは一家に一つで良くても、年賀状は、一家に一枚って訳にはいかないから、足りなくなることもあるのかもしれないし、予想もしてない人から来た時のために、返礼用に買っているのかもしれない。
 そんなとりとめのない事を考えていると、年配の女性が俺の前で足を止めた。
「いかがですか?」
 俺は言いながら、洋服でもないから、手に取ってご覧くださいとも言えないし、間が持たないと思っていると、女性は『これを』と指で指示した。
「ありがとうございます」
 お礼を言ってから、飾りを袋に入れ、お金を貰う。
 寒さで手がかじかんでいるのだろう、なかなかうまく小銭が掴めないようで、最後はスッと小銭入れを俺の方に突き出した。
「お兄さん、細かいのはここから取って」
「では、失礼します」
 俺は慎重に小銭入れを受け取ると、中から必要な分の小銭を取り出し、手のひらに広げて女性に見せた。
「では、細かい方、確かに頂戴いたします」
 女性が頷くのを確認してから、小銭入れを返し、レジを打ってレシートを切った。
「良いお年を」
 飾りとレシートを私ながら言うと、女性は『お兄さんもね』と言って重そうな荷物を両手にぶら下げて帰っていった。
 それからも、一時間に一つくらいのペースで飾りは売れたが、さすがに売れないせいで寒さは体に堪えた。
 がむしゃらに働いただけで、貯金もできないままの年が再び終わろうとしていた。
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