君のいた時を愛して~ I Love You ~
 電車を乗り継ぎ、辿り着いたお寺は、小さい名も知られていないようなお寺で、檀家の人以外が訪ねてくることなどない、そんな鄙びたお寺だった。
 コータが挨拶をすると、わざわざ住職が姿を見せ、新婚の二人を祝福してくれた。
 線香を貰い、コータはゆっくりと墓石がずらりと並ぶ墓地をまっすぐに母の墓を目指して進んだ。
「ここは、俺の母さんの家の墓があるんだ。だから、入ってるのは、俺が会ったことのない母さんの両親とか、その両親とか。母さんは、俺を産んだから、勘当されちゃってさ、だから、俺は母さんの親戚とかもあったことないんだ」
 コータは説明しながら進むと、突然足を止めた。
 コータの視線の先にある『中村家之墓』と書いてある墓の墓石はそれこそピカピカと言うかのぴったりなくらい綺麗に磨かれており、墓石の前にある二つの花を生ける入れ物には入りきらないほどぎっしりと値の張りそうな立派な菊の花が刺さっていた。
「誰かが、来たんだ」
 コータは言うと、通路脇に線香を投げ捨て、来た道を取って返した。しかし、寺の門の前には見覚えのある黒塗りの車が横付けされ、そのわきには絶対にコータには勝てないだろうガタイの良い男が立っていた。
「お待ちしておりました」
 男は言うと、車のドアーを開けた。
 しかし、コータは立ち止まり頭を横に振った。
「もう、あんたたちのいう事は聞かない。かえって、あの人に伝えてくれ。俺はあの人の息子じゃない。何もかも間違いだって」
 コータの言葉にも、男は引こうとせず、ただ車のドアーを開けてコータに乗るように促した。
「申し訳ありませんが、それは、ご本人にお伝えください。私共は、幸多さんをお迎えに上がったので、お連れしないままでは、戻ることが出来ません」
 確かに、向こうも仕事なのだろうから、子供の使いのように『はいそうですか』と帰ってくれるはずはなかった。
「俺は、サチを置いてはどこにもいかない」
 コータは言うと、ぎゅっとサチの手を握った。
「少々お待ちください」
 男は言うと懐から携帯を取り出し、どこかへ電話をかけた。
「ご一緒にお連れするようにとのことでございます」
 男の言葉にコータがサチの方を見ると、サチが頷いた。
「あたし、コータのお父さんにも、ちゃんと結婚を認めてもらいたい」
 小さく、囁くように言うサチに、コータは仕方なく頷くと、サチと共に車に乗り込んだ。

☆☆☆

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