君のいた時を愛して~ I Love You ~
 本当は、サチと二人と決めたいというのもあるのだけれど、やっぱり、俺は自分が結婚するなんて、ずっと考えていなかったこともあり、結婚ということに関して、絶対的に一般常識がかけている気がしていたので、先にこの分厚い雑誌を制覇し、サチが遠慮して自分の希望を言い出せないなんてことがないようにしたいと思いながら、表紙をめくった。
 目次には、俺の理解できない言葉もずらずらと並んでいたが、俺が目を見張ったのは、付録だった。
『色々決める前に、彼に渡しておこう! 結婚式のあれこれ、二人の喧嘩の原因と回避の方法』
 俺は雑誌を閉じ、挟まれている薄い冊子を取り出した。
 冊子を開くと『彼女が怒っちゃう、飽きれちゃう、泣いちゃう、シチュエーション集めてみました』と書いてあり、俺は一気に、その冊子を読み通した。
 読み終わってみると、基本、式を挙げる場合の注意点がほとんどだったが、やはり、ドレスを選ぶ時の新郎の態度が新婦を酷く傷つけるという部分がグサリと俺の胸に突き刺さった。
 正直、俺は、写真を撮れる場所に行けば、ドレスやそのへんの事は全部用意してくれるから、場所を調べればいいだけと、簡単に考えていたが、実際のところ、そこのドレスをサチが気に入るか、もし、気に入らなかったらどうするかとか、そんなことまで考えていなかった。
 ドレスなんて、みんな白くておんなじように見えると俺は思っているが、雑誌をパラパラめくってみる限り、かなりたくさんの種類がある。
 俺は眩暈がして雑誌を閉じた。
 休憩時間終了まで、あと七分。
 鉛の箱に心臓をしまわないと、夕飯の買い物に来る主婦たちは、猛禽類のように鋭く、ピラニアのように大群で押し寄せてくる。
 俺は深呼吸すると、雑誌をロッカーに戻し、再び戦闘モードに入り、売り場へと戻っていった。

☆☆☆

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