君のいた時を愛して~ I Love You ~
コータを見送り、洗濯をしてから大将の店の仕事にいったサチは、最近のお決まりで昼寝をしていた。
PHSの着信音に起こされたサチは、半ば寝ぼけたまま電話に出た。
「さっちゃん、早く写真を見せて頂戴な」
電話の主は、言わずと知れた、リサイクルショップのおばさんだった。
「あ、でも写真出来てなくて・・・・・・」
サチが寝ぼけ眼をこすりながら言うと、大きな笑い声が聞こえた。
「まったく、あんた達パソコンの一台くらい用意しておくもんよ。ディスク持って、早くいらっしゃい」
おばさんの押しに負け、サチは重たい体を持ち上げると、ディスクをカバンに入れてリサイクルショップへと向かった。
扉をくぐり、いつものように奥の部屋に向かうと、おばさんがノートパソコンを広げてサチを待っていた。
「もう、早く見せて!」
子供のようなワクワク顔のおばさんに、サチはディスクを手渡した。
おばさんは慣れた手つきでディスクをパソコンに入れると、マウスをカチャカチャと言わせたと思うなり『可愛い!』と大きな声で言った。
「本当に、さっちゃんのドレス、似合ってるわぁ~」
おばさんの言葉に刺激され、サチは思わず首を伸ばして画面をのぞき込んだ。
「あっ!」
大きな画面に表示されていたのは、サチとコータが仲睦まじく並んで立つ写真だった。
「こうやって見ると、コータ君だっけ、結構なイケメンじゃない」
おばさんの言葉、まじまじとサチはコータの事を見つめた。
確かに、おばさんの言うとおり、正装して髪の毛をまとめたコータは、写真を撮った日に気付かなかったのが嘘みたいにとてもカッコよかった。
「ふたりとも、緊張しててお互いがどれくらい素敵か気付いてなかったんでしょう」
おばさんは言うと、手早くマウスを動かし、ディスクを取り出した。
「これでオッケーよ」
何が『オッケー』なのかサチにはわからなかったが、おばさんは近くに置いてあった機械をいじったと思うと、それをサチに見せてくれた。
「えっと、これは?」
「電子写真立てとか言うものよ」
説明されても意味が分からず、サチは恐々と両手で受け取った。
「いい、電源入れるわよ」
おばさんが電源ケーブルをさすと、画面が明るくなり、小さな画面いっぱいに二人の姿が映し出された。
「えっ、すごい、これ写真が表示されてる」
サチは言いながら、食い入るように写真を見つめた。
「結婚祝いよ」
「えっ?」
サチは驚いて訊き返した。
「どうせ、パソコンもないだろうし、写真も印刷を頼んだのは一枚だけって聞いたから、これがあれば、ディスクから直接はできないけれど、持ってきてくれれば好きな写真にいつでも変えてあげられるし、たまたま、どうしても買い取ってほしいって人が来たから、ちょうどさっちゃんに上げるのにいいなと思ってね」
「おばさん、ありがとう!」
サチは言うと、電子写真立てなる物を胸に抱きしめた。
「買い物、まだでしょ。一緒に行きましょう。写真立てとディスクは帰りにここによれば無くす心配も、壊す心配もないからね」
「はい」
サチは笑顔で答えると、いったん電子写真立てをおばさんに返した。
「じゃあ、行きましょうか」
おばさんに促され、サチは店の外へと足を進めた。
「あれは、デジタルフォトフレームって言うんだよ、さっちゃん。まったく、おばさんったら、電子写真立てだなんて、滅茶苦茶教えて・・・・・・」
出口に向かって歩いていたサチに、甥御さんがそっと囁いた。
「あれ、デジタルフォトフレームって言うんですか?」
「そう。うちのおばさん以外はね」
甥御さんは言うと、ウィンクして倉庫の方へ姿を消した。
一人では行きたくない、コータをクビにしたスーパーだけれど、最近の体調の悪さを考えると、なかなかコータのいる遠くのスーパーまではいかれない。だから、こうして誘ってもらえることがサチにはとても嬉しかった。
普通なら、きっと母と交わしただろう会話をしながら、カートに載せたかごの中に食材を入れていく。
「これは、新鮮ね」
キャベツの切り口を確認してかごに入れるおばさんを見習い、最近ではサチもかなりな目利きになってきたつもりだ。
「ブロッコリーは、相変わらず高値ね」
そう言いながらかごに入れるおばさんとは違い、サチが真剣に悩むのはもやしの鮮度だ。新鮮だと思って買っても、少し時間がたつだけでダメになってしまうから、野菜を使う日は、毎日買い物に来る必要があるし、ある意味、あの小さい冷蔵庫でなんとかできる限界はやはり一人だと最近はしみじみと感じるようになったサチだった。
「ああ、冷蔵庫が小さいからね」
おばさんはサチが野菜を買い控える理由を察して、少し首を傾げた。
「出物の冷凍冷蔵庫はあるんだけど、大きいのよね。さっちゃんたち、あのシングルベッドで二人で寝ていても部屋が狭いって言っていたでしょ。だとすると、あの冷蔵庫を入れたら、いるところが無くなっちゃうわね」
おばさんは言いながら、カボチャの鮮度と質を確認しながらかごに入れた。
「冷蔵庫は欲しいけど、置いたら立って生活しないとだめですね」
サチが笑って言うと、おばさんも笑い返した。
レジを通り、サチは貰ったデジタルフォトフレームを胸に抱えて部屋へと帰った。
☆☆☆
PHSの着信音に起こされたサチは、半ば寝ぼけたまま電話に出た。
「さっちゃん、早く写真を見せて頂戴な」
電話の主は、言わずと知れた、リサイクルショップのおばさんだった。
「あ、でも写真出来てなくて・・・・・・」
サチが寝ぼけ眼をこすりながら言うと、大きな笑い声が聞こえた。
「まったく、あんた達パソコンの一台くらい用意しておくもんよ。ディスク持って、早くいらっしゃい」
おばさんの押しに負け、サチは重たい体を持ち上げると、ディスクをカバンに入れてリサイクルショップへと向かった。
扉をくぐり、いつものように奥の部屋に向かうと、おばさんがノートパソコンを広げてサチを待っていた。
「もう、早く見せて!」
子供のようなワクワク顔のおばさんに、サチはディスクを手渡した。
おばさんは慣れた手つきでディスクをパソコンに入れると、マウスをカチャカチャと言わせたと思うなり『可愛い!』と大きな声で言った。
「本当に、さっちゃんのドレス、似合ってるわぁ~」
おばさんの言葉に刺激され、サチは思わず首を伸ばして画面をのぞき込んだ。
「あっ!」
大きな画面に表示されていたのは、サチとコータが仲睦まじく並んで立つ写真だった。
「こうやって見ると、コータ君だっけ、結構なイケメンじゃない」
おばさんの言葉、まじまじとサチはコータの事を見つめた。
確かに、おばさんの言うとおり、正装して髪の毛をまとめたコータは、写真を撮った日に気付かなかったのが嘘みたいにとてもカッコよかった。
「ふたりとも、緊張しててお互いがどれくらい素敵か気付いてなかったんでしょう」
おばさんは言うと、手早くマウスを動かし、ディスクを取り出した。
「これでオッケーよ」
何が『オッケー』なのかサチにはわからなかったが、おばさんは近くに置いてあった機械をいじったと思うと、それをサチに見せてくれた。
「えっと、これは?」
「電子写真立てとか言うものよ」
説明されても意味が分からず、サチは恐々と両手で受け取った。
「いい、電源入れるわよ」
おばさんが電源ケーブルをさすと、画面が明るくなり、小さな画面いっぱいに二人の姿が映し出された。
「えっ、すごい、これ写真が表示されてる」
サチは言いながら、食い入るように写真を見つめた。
「結婚祝いよ」
「えっ?」
サチは驚いて訊き返した。
「どうせ、パソコンもないだろうし、写真も印刷を頼んだのは一枚だけって聞いたから、これがあれば、ディスクから直接はできないけれど、持ってきてくれれば好きな写真にいつでも変えてあげられるし、たまたま、どうしても買い取ってほしいって人が来たから、ちょうどさっちゃんに上げるのにいいなと思ってね」
「おばさん、ありがとう!」
サチは言うと、電子写真立てなる物を胸に抱きしめた。
「買い物、まだでしょ。一緒に行きましょう。写真立てとディスクは帰りにここによれば無くす心配も、壊す心配もないからね」
「はい」
サチは笑顔で答えると、いったん電子写真立てをおばさんに返した。
「じゃあ、行きましょうか」
おばさんに促され、サチは店の外へと足を進めた。
「あれは、デジタルフォトフレームって言うんだよ、さっちゃん。まったく、おばさんったら、電子写真立てだなんて、滅茶苦茶教えて・・・・・・」
出口に向かって歩いていたサチに、甥御さんがそっと囁いた。
「あれ、デジタルフォトフレームって言うんですか?」
「そう。うちのおばさん以外はね」
甥御さんは言うと、ウィンクして倉庫の方へ姿を消した。
一人では行きたくない、コータをクビにしたスーパーだけれど、最近の体調の悪さを考えると、なかなかコータのいる遠くのスーパーまではいかれない。だから、こうして誘ってもらえることがサチにはとても嬉しかった。
普通なら、きっと母と交わしただろう会話をしながら、カートに載せたかごの中に食材を入れていく。
「これは、新鮮ね」
キャベツの切り口を確認してかごに入れるおばさんを見習い、最近ではサチもかなりな目利きになってきたつもりだ。
「ブロッコリーは、相変わらず高値ね」
そう言いながらかごに入れるおばさんとは違い、サチが真剣に悩むのはもやしの鮮度だ。新鮮だと思って買っても、少し時間がたつだけでダメになってしまうから、野菜を使う日は、毎日買い物に来る必要があるし、ある意味、あの小さい冷蔵庫でなんとかできる限界はやはり一人だと最近はしみじみと感じるようになったサチだった。
「ああ、冷蔵庫が小さいからね」
おばさんはサチが野菜を買い控える理由を察して、少し首を傾げた。
「出物の冷凍冷蔵庫はあるんだけど、大きいのよね。さっちゃんたち、あのシングルベッドで二人で寝ていても部屋が狭いって言っていたでしょ。だとすると、あの冷蔵庫を入れたら、いるところが無くなっちゃうわね」
おばさんは言いながら、カボチャの鮮度と質を確認しながらかごに入れた。
「冷蔵庫は欲しいけど、置いたら立って生活しないとだめですね」
サチが笑って言うと、おばさんも笑い返した。
レジを通り、サチは貰ったデジタルフォトフレームを胸に抱えて部屋へと帰った。
☆☆☆