お嬢様、今夜も溺愛いたします。


「ほんと迷惑」


今も吐き捨てるように言う黒木さんだけど、私はその気持ち、分かる気がする。


元カレが私を好きになってくれたのも、結局は容姿だった。

私の、甘えるのが苦手だということを知った途端、1度も振り返ることもなく、離れていった事実。

その時の、つらくて泣いた思い出は、たぶん一生忘れられない。


自分の性格、つまりは本質を、否定されたみたいで。


私の場合、生きる気力もなくすほど、落ち込んだし……


好きなのは見た目だけ、そんな傷つくようことを言われて、誰が付き合おうなんて思うかな。


次第に泣きそうになる女の人に構わず、黒木さんはイラつきを隠すことなく、容赦なく言葉を浴びせる。


「とにかく、無理だから」


そう言って立ち去ろうとする黒木さんに、待ってと涙声で声をかける女の人。



「そ、それは、皇財閥のお嬢様が、いるからなの……?」


えっ……

それって、私のこと……だよね?


背中を向けていた紗姫も、振り返って自分を指さす私を見て、ウンウン頷く。


「だったら?」

「え……」


ドキッ──────



「だったら、なんなわけ?
他人のあんたにそんなこと、関係ないだろ」



それだけ言うと黒木さんは、私たちがいるのとは反対方向、大学の校舎のある方へ去っていった。


途端に泣きながら崩れ落ちる女の人をよそ見に、紗姫に、行こうと合図されて歩き出す。


< 113 / 353 >

この作品をシェア

pagetop